第75話 軽率な行動
翌日。マリー、チカ、メリィ、シィーの4人は統括のお爺さんの案内で王城に向かった。
チカ達が立派な城門を抜けると広大で美しい庭園が視界に飛び込んできた。
並び立つ樹木は均一に整えられており、芝生と庭石を使って綺麗な模様が描かれている。
王城の中に入り、金装飾に彩られた豪華絢爛な廊下を進んでいくと、兵士が2人立っている大きな扉が見えてきた。
兵士はギルド統括に気づくと、敬礼をしてからゆっくりと扉をあけて中に通してくれた。
「よくきてくれましたね」
部屋の中に入ると、長いテーブルの中央に綺麗なドレスを着た赤毛の女性が座り、向かい側の端っこの席に20代半ばぐらいの黒髪の男性が座っている。
「陛下お待たせ致しました。彼女が冒険者のチカです」
「ふふふ。本当に可愛らしいネコの格好をしているのですね」
ハート女王陛下は微笑みながらチカを見つめる。
「初めまして。冒険者のチカです」
「ええ。チカ、待っていましたよ。ささっ、そんなところに立ってないで、席に座なさい」
チカ達は女王様の対面に座ると、すぐメイドさんがカップをテーブルに並べて飲み物を注いでくれた。ハート女王陛下は嬉しそうに微笑みながら、
「急に呼んでしまってごめんなさいね。どうしてもマサキ様がお会いになりたいとおっしゃるので、私も貴方に興味が湧いてしまったの」
そう言うと、ハート女王陛下はテーブルの上の白いカップを口元に運び、カップの中身を嚥下して微笑む。
「いえ大丈夫です。王城にお招きいただきありがとうございます」
「ふふふ。公の場ではないのですから、もう少し普通に話してもらえるとうれしいわ」
「分かりました。善処します」
「そうだわ。彼を紹介しますね。そちらに座られている彼が勇者のマサキです」
勇者の方へ顔を向けると、勇者席を立ち上がり、こちらを見つめてニコッと爽やかな笑顔で軽く頭を下げる。
「やあー! はじめまして。俺が勇者をしているマサキです! チカさん。来てくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそお会いできて光栄です。勇者様」
「あははっ!勇者様だなんてやめてくださいよ! マサキでいいですよ!」
そう言うと、マサキは照れ臭そうにしながら頭を掻く。
礼儀正しくて良い人そうだ。
てっきり俺様系がでてくるかと思ったよ。
◆◇◆◇
それぞれ自己紹介を終えると、メイドの人達がテーブルに美味しそうな料理を次々と並べてくれた。
食事を美味しくいただいていると、マサキさんが私の隣に座ってきた。
「チカさん。楽しんでもらえてますか?」
「はい。とても楽しませてもらってます」
「それはよかった! あっ、できればもう少し普通に話してくれると助かります。俺まで気を使ってしまうので」
「じゃあお言葉に甘えて。それでマサキさんはどうして私を呼んだの?」
「たった1日で奈落に迷宮の70階層を踏破したことをアーサーさんから聞いて、チカさんが俺と同じなんじゃないかと思ったんです」
「アーサーさん?」
──誰のことだろ? そんな伝説の剣を抜いちゃいそうな名前の人に会ったら、忘れないと思うんだけどなあー。
「あれ? チカさんと一緒にきましたよね?ほら、あそこに座っていまハート様とお話をしているお爺さんですよ」
ギルド統括のお爺さんのことかッ!!
そういえば名前を聞いたことなかったや。
アーサーって名前だったんだ。
「あははっ! さては名前を知らなかったんですね?」
「う、うん。初めて知ったよ。なんか王様になりそうな名前だね」
「俺も同じことを思いました! 伝説の剣とか抜いてそうですよねっ!!」
「そうそう! やっぱそう思うよね!」
「思いますね! ──でもこの話題が分かるってことは、やっぱりチカさんも俺と同じだったんですね!」
マサキさんは嬉しそうに笑いながら私を見つめると、胸に手を当ててホッとしたように息を漏らした。
「チカさんと出会えて本当に嬉しいです。てっきりこの世界にいるのは俺だけだと思っていたので......」
「あははっ! 私も逢えてよかったよ。でもよく分かったね?」
「あー。1日であの迷宮の70階層を踏破する方法なんて、10階層の隠し部屋を使うしかないですからね。チカさんもフィリア・クロニクル・オンラインで遊んでたんじゃないかなって思ったんです」
「あーっ! やっぱりマサキさんも同じゲームで遊んでたんだ!」
「はい! 初めてあの迷宮に行った時は驚きましたよ。ゲームとほとんど同じでしたからね。でもよく70階層のBOSSを倒せましたね?確かゲームだとあの辺りの階層の適正レベルって80前後ですよね? どうやってそんなにレベルを上げたんですか?」
さすが同じゲームで遊んでただけあって詳しいなあ。まー、ブリュナークは色んな人に見せちゃってるし、話しても問題ないかな。
「レベルはそんな高くないよ」
「えっ? じゃあチカさんはどうやって倒したんですか?」
「これのおかげかな。あっ、性能のことは黙っておいてね?」
チカはそう言うと、猫耳パーカーのポケットからブリュナークを取り出した。次の瞬間。近くに控えていた衛兵がどよめき、チカの周囲を取り囲み武器を構えた。
「えっ!? ち、ちょっとっ!! 急にみんなどうしたの!?」
その様子を遠目で見ていたメリィは大きくため息をつくと、呆れた顔でチカを見つめながら口を開いた。
「チカ......。陛下のいる前で武器を取り出すバカがどこにいるのニャ? 少し考えればそうなることぐらい誰でも分かるのニャ!!」
「あああああ──ッ!!」
そりゃそうだよっ!!
急に武器なんて取り出したら、王族を襲いにきたと思われてもおかしくないじゃんっ!
「ち、ちがうんですっ!! これは──」
チカが慌てて兵士達に弁解しようとしていると、メリィがそんなチカをニヤニヤした顔で見つめながら、
「どうやら首をはねられるのは私じゃなくてチカになりそうだニャ......」
「ちょっとメリィちゃん!? ──いや本当に違うんですっ! 誤解なんです!!」
必死で弁解するチカの叫び声が部屋中に響き渡った。
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