第74話 ウサギがいたら完璧だったのに

 ケーキパーティーから数日が経った。


 チカは自室のベットに腰掛けながら、窓辺に座って無気力な瞳でぼーっと外を見つめているシィーとマリーの様子を眺めながら、大きな溜息をついた。



 ケーキパーティーでシィーが怒られた腹いせに、わざと甘いものが嫌いなジョンさんにケーキを食べさせたことを知ったわたしは、シィーにお仕置きとしてゲーム禁止令をだした。


 シィーとマリーちゃんは、それからずっとあの調子だ。


 窓辺に座って2人でゲームの話で盛り上がっているかと思うと、2人とも何かを思い出したようにうつむいて静かに窓の外を眺める。


 これだけ聞けば2人をかわいそうに思う人もいるかもしれない。


 だけど騙されちゃいけない!


 この2人はこれをわざわざ私の見える場所で、数日間に渡ってずーっと繰り返しているのだ。


 見てるとこっちまで気が滅入るので拠点内で場所を移動しても、外にでかけても、私の後をこっそりついてきて、ふと気がつくと遠くを見つめる2人が私の視界に飛び込んでくる。


 いい加減私の頭がストレスでおかしくなりそうだ。この2人が組むと本当にタチが悪い!

 ストレートに私の心を抉ってくる。



 私はこの数日間を思い出して、大きく溜息をついたあと、ベットから立ち上がった。


「ああああ──ッ!! もう分かったよ! ゲームを出せばいいんでしょ!?」


 私の叫び声を聞いて、2人の耳がピクっと揺れたかと思うと、ニンマリしながら私の方へ振り返った。


「......」


 2人の表情をみてチカの表情が凍りつく。


 まさかそんな反応をしてくるとは思っても見なかった。このままゲームを渡してしまって本当にいいのだろうか......?


 ──いや絶対よくない!


 チカはどうすればいいか少し考えた後、真剣な表情で2人を見つめた。


「ふたりともゲームはだしてあげるけど、これからはルールを決めて遊ぼっか。」

「ルール? どんなルールなの?」

「2人で話し合ってゲームのやっていい時間を決めてきていいよ。だけど、いまのままゲームを長時間続けていると依存症になっちゃうからね?」


「「依存症?」」


「あれ? もしかして依存症って言葉自体こっちにはないの?」

「聞いたことねえの。チカ、それはどんなものなの?」

「ゲームが楽しすぎて、日常生活に支障をきたすようになっちゃう病気のことだよ。2人とも見に覚えがあるんじゃない?」


「「うっ」」


 私の言葉を聞いて、2人は気まずそうに瞳を伏せる。


「だから2人で相談してルールを決めたら、2人でそのルールーを守っていって? もしそれが嫌なら、創った私が責任を持ってゲーム機を破壊しちゃうからね?」


「わ、分かったの! 約束するの!」

「ん! ルールは守る」


 2人はそう言うと、何度も首を縦に振る。


「私も罰としてゲームを禁止にしたのは良くなかったね。でもシィーはもう少し考えて行動しないとダメだよ?」


「わかったの! ジョン爺に謝ってくるの!」

「ん。私もついてく。ルール決まったらチカに教えにくるね?」

「うん! いってらっしゃい」


 2人が部屋をでていく。

 私はでていく2人の背中を見つめながら、問題が解決したことに安堵してホッと胸を撫で下ろした。


「ふぅ......。これでシィーも少しは落ち着いてくれるといいんだけどなあ」


 なんだかシィーのお母さんになった気分だ。


 ◆◇◆◇


 昼食を終えてみんなで居間でゆっくりしていると、家の扉を外から叩く音が聞こえてきた。マリアさんが席を立ち扉へ向かう。


 ギルド統括のお爺さんだ。勇者と会う日程のことできたのかな?


「待たせてわるかったな。勇者様の日程の調節に手間取ってな」

「全然大丈夫だよー。いつになったの?」

「チカ達の都合が良ければ明日のお昼でどうだ?勇者様み一緒に昼食を食べながらゆっくり話したいそうだ」

「りょーかい。それで明日はどこに行けばいいの?」

「シンフォニア城だ」

「おーっ! お城でやるんだ。ん? ねえ、会うのは勇者様だけなんだよね?」

「あーいや、それがな......」


 統括のお爺さんは困り顔で頭を掻きながら、言葉を詰まらせた。メリィーちゃんは統括のお爺さんの反応をみて不思議そうに首を傾げる。


「誰がいるのニャ? まさか王族も一緒になんてことはないと思うけど、その反応は気になるニャ」

「すまん。そのまさかだ。陛下も同席されるそうだ。チカに興味があるらしい」

「えっ、でもわたしマナーとか全然分からないよ? 逮捕されたりしない?」


 不敬罪だっけ? ドラマやアニメでよくあるやつだ。お願いだからゲスな王様のパターンだけはやめてほしい。


「マナーは気にしないでいいそうだ。ハート女王陛下はとても寛大なお方だからな。」

「ハートの女王......」


 ハートの女王と首のしっかりついた猫なんて、最悪の組み合わせじゃないか!


「ん? チカ、一体どうしたんだ?」

「いや。その女王陛下って、首をはねるが好きだったりしないよね?」

「そんな分けないだろっ!! ん? そういえば勇者様もニヤけた猫がどうだの、よくわからんことを言ってたな」


 よかった。変な想像をしたのは私だけじゃなかったみたい。それにしてもハートの女王と3匹の猫か......。おしいなあー。これでウサギがいたら完璧だったのに。



「チカ、頼むから陛下の前で失礼なことはしないでくれよ?」


「大丈夫だよー! そんなことするわけないじゃん。それに、わたしよりメリィちゃんのほうが危ないかもしれないよ?」


「そ、それはどういうことニャ? 私は失礼なことなんてしないニャ」


「笑うだけで首をはねられるかも。失礼のないように気をつけてね?」

「ニャッ!?」


 メリィちゃんは私の真面目な口調に驚きの声を上げながら勢いよく椅子から立ち上がると、不安そうな表情で統括のお爺さんに視線を向けた。


「笑うだけで首をはねられるって本当なのかニャ!?」


「お、お前まで何を言いだすんだ。そんなわけないだろっ! おいチカ!! 悪い冗談はやめろ! こうやって本気にする奴がでてくるだろうがあ──っ!!」

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