第71話 念願の例のもの

 私達はギルドをでて、人で賑わう王都の街並みを歩いていく。


「勇者様どんな人だろ♪ あっ!なにかプレゼントも用意しないと!」

「ふふふ。そうだニャ! マリーはなにがいいと思うニャ?」

「んー!」


 マリーちゃんはあれからずっと上機嫌だ。

 ニマニマした笑顔を浮かべながら、まるでスキップを踏むかのように足取りも軽やかだ。


 勇者様に逢えるのがよっぽど嬉しいみたい。

 嬉しそうにしてるマリーちゃんを見ていると、私までほんわかした温かい気持ちになってくる。


「さてこれからどうするかニャ! 二人ともどこかいきたいところはあるかニャ?」

「んー。私は特にないかな」

「えっ?」


 マリーちゃんは私を見つめて首をかしげると、私の猫耳パーカーの裾をギュっと握り、軽く引っ張ってきた。


「ん? どうしたのマリーちゃん」

「チカ忘れてる? ケーキ屋行きたいんじゃなかった?」

「そうでしたッ!! ありがとうマリーちゃん! すっかり忘れてたよ!」

「ん! よかった」


 王都には私の大好きなケーキがあるんだった! どんなのが売られているのか今から楽しみだ。お金にも余裕があるし買い込んでおこうかな?


 ケーキのことを考えていると、ふと頭の中で疑問が浮かんだ。


 あれ? そういえばこのバックって時間経過はどうなるんだろ。

 ゲームの仕様で考えて創ったからたぶん大丈夫かな?


「チカ? また考えごと?」

「あっうん。ケーキを買い込むかどうか悩んでたんだあ」

「買い込む? でも収納魔道具に入れると腐っちゃうよ?」

「えっそうなの?」

「ん。取り出すときに悲惨な思いをすることになる」

「うえー。それは嫌だなあ」


 やっぱり買い込むのは検証してからにしようかな。腐っちゃったらもったいないもんね!


「ん。それともそのバックってチカが創ったの?」

「実はそうなんだよ。だからどうなるか後で検証してみようかなーって」

「おおっ...! それは楽しみ。私も一緒にやっていい?」

「もちろんだよー! 一緒にやってみよっ!」

「ん!」


 私とマリーちゃんがバックの話題で盛り上がっていると、横にいるメリィちゃんが眉間にシワを寄せながら、目を細めてジーッと私を見つめていることに気がつく。


「ど、どうしたのメリィちゃん。そんな怖い顔して」

「なんか私だけ除け者にしてないかニャ?話題に全然ついていけないニャ。そういえば妖精さんのことも詳しく知らないままニャ」

「あっ......」


 そうだった。すっかり話したつもりになってたけど、メリィちゃんはずっと迷宮にいたから知らないんだ。


「メリィちゃんごめんね。話したつもりになってたよ」

「別に話したくないなら、私はそれでもいいんだけどニャ」


 そう言うと、メリィちゃんは口を尖らせてプイっと顔を背けた。


 いや絶対いじけてるじゃん!


「そんなことないよ!! ただ重要な話だから王都の拠点にもどってからにしてもいいかな?」

「しょうがないニャ。それまで我慢するニャ」

「ありがと。本当ごめんね?」

「ん...。お姉ちゃんごめんなさい」

「もう気にしないでいいニャ。じゃあケーキ屋に寄ってから帰ろうかニャ!」

「うん!」



 しばらく歩くとケーキの絵が描かれた大きな看板が見えてきた。


 お店の中に入ると、たくさんのお客さんで賑わっていた。意外に男性客も多い。

 行列ができていたので一番後ろに並ぶ。


「おー! 種類も結構豊富なんだねっ!」

「ん! どれにするか悩む」


 ガラスケースの中には、20種類以上のケーキが並んでいた。チーズケーキやショートケーキ。ティラミスなんかもある。


 こんなにたくさんのケーキを再現できるなんて、昔の勇者はお菓子作りが好きだったのかな?

 味がどこまで再現できてるのか気になるところだ。


「いらっしゃいませ! お客様はお持ち帰りですか? それともあちらのテーブルで食べていかれますか?」


 やっと私たちの順番になり、店員さんが明るい笑顔で接客してくれた。


「チカどうするのニャ?」

「そんなの決まってるじゃん!」

「ん?チカ。もうどれにするか決まったの?」


『全種類2個づつください!! 全部お持ち帰りで!!』


「「「えっ!?」」」


 周囲にいたお客さんから驚きの声があがり、店内にどよめきが起こる。


 一緒にいたマリーちゃんとメリィちゃんですら、目を見開き驚いた表情で私を見つめた。


「ぜ、全種類ですか? 40個以上ありますよ!?」

「うん! 全部買うよ!」

「か、かしこまりました。す、すぐ用意しますね!」


 店員さんは慌てた様子でケーキをどんどん箱に詰めていく。


「本気なのかニャ? 私そんな食べられないニャ!!」

「ん!私も。チカ大丈夫なの?」


「だいじょうぶ!! ケーキならいくらでも食べられるから!!」


 私はドヤ顔で得意げに胸を張る。


 ふふふ。昔からケーキバイキングに友達と一緒に行くと、食べ過ぎを心配されるぐらい、ケーキだけはいくらでも食べれちゃうんだよね!


 この世界にもできないかなー!

 ケーキバイキング。



「お、お待たせしました」

「ありがとー!!」


 店員さんにお金を渡して、ケーキをバックの中にしまっていく。


 さあ今日はケーキパーティーだッ!!


 私達はどよめく店内をでて、王都の拠点に向かって歩きだした。

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