第72話 視線と再会

 ケーキ屋をでて拠点に向かって歩きながら、私は王都の街並みと周囲に暮らす人々を眺める。


 王都はニッケルに街とは比べものにならないほど発展し、たくさんの人々で賑わいを見せている。


 大通りを少し歩けば大勢の人とすれ違うし、身につけている衣服やお店の外観は、元の世界で見たことがあるようなものが多いので、なんだか懐かしい気持ちになってくる。



 馬車の中にいた時は全然気づかなかった。

 こうしてゆっくりと王都を歩く余裕なんてなかったもんなあ......。



 周囲を眺めながら思いを巡らせていると、ふと重大なことに気がついた。


 ──なんでみんな私達をみてるのッ!?



 ニッケルの街ではマリーメリィ商会にできた肉まんの屋台のせいで、私が街をただ歩いてるだけで周囲の注目を集めていた。

 しかし、ここは王都だ。私達に注目が集まるなんておかしい。


「ねえメリィちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど聞いていい?」

「ん? どうしたのニャ?」

「まさか王都でも例の肉まんを売ったりはしてないよね?」

「あははッ! 急に何を言いだすのニャ? 売るわけないニャ! 王都には支店すらまだないニャ」

「そ、そうなんだ。」


 んー? じゃあなんでだろう?


 疑問を抱きながら改めて周囲を観察していると、ニッケルの街とは明かに異なる点に気がついた。


 奇異の眼差しで私達を見ているのだ。


 ──そ、そういえばまだ一度も猫耳パーカーを着ている人を見てない。まさか......。


「メリィちゃん。ね、猫耳パーカーって王都でも売ってるんだよね?」

「売ってるわけないニャ。あれは私達のオリジナルなのニャッ! 前から少し疑問ではあったのニャ。チカは勇者様の服が好きなのに、なんでそんなことも知らないのニャ?」

「なっ......」



 ──こいつ猫耳パーカーが原因かああああ──ッ!!


 これならニッケルの街にいたときのほうがマシじゃん! もうヤダ。おうちに帰りたい......。



 憂鬱な気分で街を歩いていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「チカさーん!」


 振り返ると、アージェさんが満面の笑みを浮かべながら私達に向かって走ってくる。


「はあ......。はあ......。チカさんお久しぶりです! いやーこんなところで会えるなんて偶然ですね!」


 アージェさんはニコニコした笑顔を浮かべて、照れくさそうに頬を掻く。


「久しぶり!アージェさんはどうして王都に?」

「えーと! ちょっと王都で急用がありまして......。」

「急用?」

「はい!いえ全然たいしたことじゃないんですけどね!」


 たいしたことのない急用でわざわざ王都に? なーんか、あやしいなあ......。


 私をアージェさんをジーッと見つめながら聞いてみた。


「で。本当はなんできたの?」

「そ、そのチカさんがニッケルの街をでたと聞きまして、急いで追いかけてきました......。」


 そう言うと、アージェさんは頬を赤らめながら恥ずかしそうにうつむく。そんなアージェさんを見て、私はゾクリと背筋に寒気を感じた。


 ひっ! ほ、本当に大丈夫なんだよね? 私を狙ってるわけじゃないんだよね?



「でもなんで私が王都にいるって分かったの?」

「ギルドのメアリーさんに聞きました。なんでもご友人の後を追いかけて王都に向かわれたと。ご友人は大丈夫でしたか?」

「う、うん。無事見つけることができたよ。」

「それはよかったです!」


 メアリーさんにはプライバシーについてお話しをする必要がありそうだ。

 この間も話したばかりなのになあ。


「なんだか面白そうな子だニャ! チカのことがよほど好きなのかニャ?」

「はい!大好きです!」

「あはははッ! チカは人気者みたいだニャ! そうだ。せっかくだしよければウチで一緒に食事でもどうかニャ?」

「いいんですか?」

「私達もチカのことが大好きだからニャ! 気持ちが分からなくもないニャ!」

「ん。私も同感。一緒にいこ?」

「ありがとうございます!ではお言葉に甘えてお邪魔します。」


 あっという間に決まってしまった。

 まあいいんだけどね!別にアージェさんのこと嫌いなわけじゃないし。



 王都の拠点について扉を開けて中に入ると、シィーの騒がしい声が聞こえてきた。


「ぎゃあああッ!! またモンスターハウスなの!」


「はあ...。シィーはまだやってたのか。」

「ん!大変。ちょっとシィーちゃんを助けにいってくる。」


 そう言うと、マリーちゃんはシィーが遊んでる二階の部屋に向かって走っていった。


 大変って......。

 マリーちゃんもゲームしにいくんだよね?


 事情も知らないアージェさんは、心配そうに二階を見つめている。


「チカさん。今の声って妖精様ですよね?助けにいかないでいいんですか?」

「あー。遊んでるだけだから大丈夫だよ。騒がしくてごめんね。」

「そうでしたか。ならよかったです。でも一体どんな遊びをしてるんですかね。やけに楽しそうな声が聞こえてきますけど......。」

「あはは......。」


 一日中ゲームして遊んでます。

 とは言えないので笑って誤魔化すことにした。最近のシィーはゲームばっかやってまるで子供みたいだ。

 気疲れからか、おもわずため息が漏れる。


 元の世界の子を持つお母さん、お父さんはこんな心境だったのかもしれない......。



 二階からシィーとマリーちゃんの楽しげに遊ぶ声が家中に響き渡った。

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