第66話 ブルードラゴンとの激闘

 

 凄いスピードで空中を飛行しているのに、不思議と目を開け続けることができた。


 風の抵抗を全く感じない。もしかして、マリーちゃんが魔法で何かしてくれてるのかな?


 ブルードラゴンは私達に気がつくと、大きく息を吸い込み氷のブレスを放ってきた。マリーちゃんは右へ大きく旋回しながらブレスを躱す。


 マリーちゃんの風魔法の速度なら、空中でブレスを躱すのは問題なさそうだ。


 それに遠距離攻撃をしてくれてたほうがこちらも都合がいい。掴まれたり翼や尻尾を叩き込まれるほうが厄介だ。


 いまの私の装備とレベルじゃ耐えられるとは思えないしね......。


 今後猫耳パーカーの強化も考えないといけない。あとでマリーちゃんに相談してみよう。


「チカ!! 私がアイツの注意を引いてる間に早く攻撃して! 魔力の消費が激しい」

「あっ! ごめん!!」


 マリーちゃんは猫耳パーカーのポケットから魔力回復ポーションを取り出て、一気に飲み干す。


 余計なことを考えてる場合じゃないんだった。またシィーがオコになる!!


 さっきのシィーはちょっと怖かったからなぁ...。



 よし! 私もそろそろ覚悟を決めよう。

 気持ち悪くなる覚悟をね!


 ブリュナークに全力で魔力を込めて、猛々しく翼を羽ばたかせるブルードラゴンに向かっておもいっきり放り投げる。


 漆黒の槍がまばゆい輝きを放ちながら激しい稲妻を纏って、疾風のよう飛んでいく。


「グギャァァ――ッ!?」


 ブルードラゴンの腹部に漆黒の槍が突き刺さり、痛みからか一瞬怯んで動きが止まる。

 突き刺さった周囲の皮膚が稲妻の熱で焼き焦げている。


「貫通しない?」


 さすがドラゴン。ガルーダなんかとは比べ物にならないほど強固な鱗で守られているみたいだ。それなら......。


「うっ......!」


 手元に戻ってきたブリュナークに再び魔力を込めていると、突然目眩と吐き気に襲われて意識が遠のく。


 うっ......。忘れてた!

 これ魔力の枯渇だ......。


 慌てて猫耳パーカーのポケットから魔力回復ポーションを取り出す。

 目の前が霞んでフラフラしながらも、なんとかフタを開けて一気に飲み干す。


 先程までの最悪の状態がまるで嘘だったかのように、すっかり体調も快復してぼやけていた視界が鮮明になる。


「ぷっはぁーッ!! 危なかったあぁぁ!! 気を失うところだったよッ!!」


 背中からマリーちゃんの心配そうな声が聞こえてくる。


「だいじょうぶ? チカの身体がフラフラ揺れて物凄くヒヤヒヤした......」

「うわっ。マリーちゃんごめんね。」

「ん。魔力管理には気をつけて?私の腕の長さじゃチカの口まで届かないからね?」


 マリーちゃんは背中から私の胸にまわしている両手を撫でるように動かして届かないアピールをする。


「アハハっ! 私もマリーちゃんの口には届かないや。お互い気をつけないとね!」

「んっ!」



 マリーちゃんは左右に旋回してブレスを躱しながらブルードラゴンと一定の距離を保つ。


「よーし。今度こそ!!」


 気を取り直して。再びブリュナークに魔力を込めて、今度は回転を加えるようにしてブルードラゴンに向けて全力で槍を放つ。


 漆黒の槍は高速で回転しながら弧を描くように右上方からブルードラゴンの腹部を深くえぐるように斬り裂く。


 深くえぐられた傷口からは大量の血が流れだし、周囲の肉は稲妻の熱により焼き焦げて異臭を放つ。



「グルルル......ッ!!」


 ブルードラゴンは殺気めいた鋭い目つきで私達を睨みつけて、歯を剥きだしにして唸り声をあげる。

 次の瞬間。

 怒り狂いながら巨大な翼を大きく羽ばたかせると、凄まじい暴風が巻き起こり私達に襲いかかってきた。


「きゃっ!!」

「んっ......!! は、範囲が広すぎるっ......!!」


 避けることができず吹き飛ばされて、背中から壁に激しく叩きつけられる。


「ぐふっ!!」


 背中にいたマリーちゃんは口から血を吹き出して、悲痛な叫び声を漏らす。


「マリーちゃん!? きゃっ!!」


 絡みついていた風が消失し、地面に落下していく。


 しまった!

 衝撃がほとんどマリーちゃんにいっちゃったから風魔法が維持できなくなったんだ!



「ぐっ......! はあはあ......。んッー!!」


 マリーちゃんは苦しそうに歯を食いしばりながら両手を地面に向けて風魔法を使った。


 落下していく私達を風が包み込むように優しく絡みつき、徐々に落下する速度が緩やかになっていく。


 マリーちゃんは地面に着地した瞬間、意識を手放して力なく倒れる。


「くっ......! マリーちゃん大丈夫!?」


 魔力枯渇でふらつきながら、地面に倒れたまま動かないマリーちゃんに駆け寄っていく。


 よかった......。

 気を失っているけど、まだ息がある。


 急いで猫耳パーカーのポケットから治癒ポーションを取り出して、マリーちゃんに飲ませていく。


 これでよし......。

 でもマリーちゃんが戦うのはもう無理だ。

 あとは私がブルードラゴンをなんとかしないと!!



 慌てて後方の上空にいるブルードラゴンへ振り返る。


 ブルードラゴンは激しく息を切らせながらゆっくりと翼を羽ばたかせて地面に着地していく。


 効いてる。

 アイツも限界が近いんだ。

 いまアイツを休ませるわけにはいかない!


 魔力枯渇でふらつきながら残ってる力を振り絞ってブルードラゴンに向かって走りだす。


 ポーションを飲んでる場合じゃない。

 飛ばれる前にいまトドメを刺さないと!


 ブルードラゴンは私に気がつくと、大きく息を吸い込みはじめる。


「ちっ!」


 氷のブレスは避けられない。

 それに後ろにはマリーちゃんもいるんだ。

 もう放つ前に倒すしかない!


 地面を強く蹴ってさらにスピードを上げる。


「チカ─ッ!! ブレスは私がどうにかするから、そのまま突っ込むのッ!!」


 遠くからシィーの声が聞こえた。


 ブルードラゴンを見つめて走り続けながら、シィーのことを考えておもわず口元がほころぶ。



 ── 本当にシィーは頼りになるんだから......。


 

 物凄い轟音ともキラキラ輝いた氷の粒子が私に向かって放たれた。


 怯むことなく氷の粒子に飛びこむと、まるで私を避けるように綺麗に二つに分かれていく。


 荒れ狂う吹雪のように真っ白な世界とキラキラと神秘的に輝く氷の粒子が私の視界を埋め尽くした。


 次第に視界は鮮明になっていきブルードラゴンの姿が私の瞳に映しだされる。


 激しく息を切らせながらどこか怯えたような表情をするブルードラゴン。

 

 チカは身体を捻りながら地面を強く蹴りあげると、えぐられた傷口めがけておもいっきり腕を前に突きだした。


「グオォォォォォ──ッ!!!!」


 漆黒の刃がブルードラゴンの腹部に突き刺さり、背面の硬い鱗をも貫いた。

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