第64話 漆黒の大迷宮を捜索③


 あの後、必死にどうすればいいか考えた結果。泣いているマリーちゃんを抱き寄せて落ち着かせながら二人に事情を説明することにした。


 我ながら素晴らしい解答を導きだせた気がする。決してこれしかいい案がでてこなかったわけじゃない。......本当だよ?



 少しすると落ち着いてきたのか、マリーちゃんがゆっくりと私から離れた。


「ん......。もう大丈夫。チカありがと」

「ううん。私の説明が足らなかったせいで不安にさせちゃってごめんね」

「ん。チカは全然悪くない。逆にチカがいなきゃお姉ちゃんの居場所が分からなかった可能性のが高い」

「マリーの言う通りなの! 30秒間しか開けられない隠し扉なんて聞いたことないの!」


 こっちの世界でも珍しいんだ。


 元の世界でもこの迷宮にしかないギミックだった。やっぱりゲームにあった奈落の迷宮とこの世界にある漆黒の大迷宮は、なにか関係があるのかも知れない。


「ということでメリィちゃん達が最下層の71階層にいるのは間違い無いと思う。ただ万が一、BOSSに挑んでたら......」


 途中まで言いかけたところで、先程のマリーちゃんの姿が頭をよぎる。


 横目で隣にいるマリーちゃんを見ると、マリーちゃんは察してくれたのかのように、私を見てコクリと頷いた。


「ん......。70階層と80階層のBOSSじゃAランクパーティ1つじゃ絶対に勝てない。一度戻って報告すべき? でも......」


「マリー! あのお爺ちゃんに、このことを伝えればいいの?」


「ん。そう。でも王都に戻ってたらお姉ちゃん達がBOSSに挑みにいっちゃう可能性が高くなる。食料を沢山持って低層にくるとは思えない」

「じゃあ私が手伝ってあげるの! まったくしょうがない奴らなの! 私に感謝するといいの!」


 シイーがニコニコした笑顔を浮かべながら、いつもの調子で得意げに胸を張った。


 シィーのこういうところも慣れてくるとツンデレみたいで可愛く見えてくるなあ。実際シィーはすごく頼りになるしね! 人を小馬鹿にしてイラッとさせるようなところさえなければ完璧なんだだけどなぁ


「ん。シィーちゃん。何かいい方法ありそう?」

「もちろんなの! 二人とも私にまかせておくといいの! じゃあちょっと待っててほしいの......」

「ん! りょーかい」


 シィーは瞳を閉じてブツブツと何かを呟きはじめた。

 

 何を言ってるのか気になったのでこっそり耳を澄ましてみた。


 相手の声は聞こえないけど誰かと会話してる?


「よし! これでおけーなの!」

「シィー。いま誰かと話してたの?それとも独り言?」

「独り言のわけねえの! いま王都にいる友達にお爺さんへの伝言をお願いしてたの!」

「おー。さすがシィーちゃん」


 マリーちゃんは尊敬の眼差しでシィーを見つめながら手をパチパチさせる。


「ほら!! マリーをよく見るの! チカも見習うべきなの!」

「ハイハイ。スゴーイ」

「むきっー! 全然分かってないの!!」


 シィーは怒りながら私のお腹をポンポン叩いてきた。ポヨポヨのお腹が揺れて恥ずかしいからやめてくれないかな。



 シィーのおかげでジョンさんに隠し部屋のことを伝えられたみたいなので、部屋の中に入って転移トラップを発動させた。


 目の前が激しい光に包まれた。


 目を開けると周囲の景色はガラリと変わり、神秘的な青い光が薄暗い洞窟を照らしていた。


 シィーとマリーちゃんが目をキラキラ輝かせながら辺りを見渡す。


「わわっ! 凄く綺麗なの!」

「ん......。ホントに綺麗......」


 さっきまで少しホコリっぽかったのに、最下層は空気が澄んでいてひんやりと涼しい。


 マリーちゃんは手に持ったサーチニードルをチラッとみてゆっくりと歩きだす。


「チカ。お姉ちゃんはこっちみたい。ついてきて?」

「マリーちゃん。どんな魔物がでてくるか分からないから慎重にね?」

「ん。まかせて?」


 慎重に洞窟の中を進んでいくと大きな岩に囲まれた場所でマリーちゃんの足が止まった。野営の跡だ。


「ここにメリィちゃんが?」

「ん......。そうみたい」


 マリーちゃんは悲しげに肩を落としてうつむいた。


「二人ともこっちにきてほしいの!」


 シィーの声がした方に行ってみると、怪我をした女性の冒険者が岩の影に隠れるようにして倒れていた。どうやら気を失っているようだ。


 あれ? この人どこかで見たことある。どこで見たんだろう?


 マリーちゃんは猫耳パーカーのポケットから治癒ポーションを取り出して、女性の冒険者に飲ませていく。


「うっ......。ここは......?」

「ん。大丈夫?」

「え、えぇ。ありがとう。そうか......。私はジェーソンに殴られて気を失ったのね......」

「ねえ。お姉ちゃんと一緒にいた冒険者?」

「お姉ちゃん? その格好......。もしかしてメリィさんの妹さん?」

「ん! そう。お姉ちゃんはどこ?」

「えっ!? ちょっと!」


 マリーちゃんは女性の冒険者にグイグイと詰め寄っていく。

 

 困り顔の女性の冒険者さんと目が合った。


「あれ? あなたは確かチカさんですよね?」

「そうだけどあなたは?」

「失礼しました。私は砂漠の風のカノンと言います。以前ギルドでお会いしましたよね?」

「ああ!」


 思い出した。ナルシストとハゲの冒険者の後ろで、困った顔をしてた人だ。


「あの時はなにも言えなくてごめんなさい」

「気にしなくていいよ。カノンさんが悪いわけじゃないし」

「そう言ってもらえると助かるわ」


 カノンさんはホッとしたようにを撫で下ろす。


「それでどうしてこんなところに?」

「そうだ! こんな事してる場合じゃないわ! メリィさん達が危ない!!」

「えっ! どういうこと?」

「レオンとジェーソンがメリィさんを連れて転移魔法陣のある部屋に向かってしまったんです!」

「えええっ!?」


 アイツらなんて余計なことをしてくれるんだ! でもこの人が魔物にやられずに無事だったってことは、まだそんなに時間は経っていないはずだ。急げば間に合うかもしれない。


「ん! すぐ助けに行かないと!」

「そうだね。まだ間に合うかも! ボスに挑む前に止めないとね!」

「ん! カノンさんありがと。私達いくね」


 そう言うと、マリーちゃんは手元のサーチニードルを確認しながら、指針が示す方向に歩きだしていった。


 少し希望が見えてきた。メリィちゃん待っててね!!


「えっ!? 2人ともちょっと待ってっ!! こんな所に私を置いてかないでよぉーっ!!」

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