第63話 漆黒の大迷宮を捜索②
転送魔法陣のある部屋へと続く、古びた鉄製の大きな扉の前についた。
「ん。この先が転送魔法陣がある部屋」
「おっきい扉なの! なんだかドキドキしてきたの!」
シイーは楽しそうに空中をビュンビュン飛びまわっている。
はぁー。楽しそうなシィーが凄くうらやましい。私はドキドキしすぎて胃が痛くなってきたよ。
このBOSSを倒せばメリィちゃん達がどっちに進んだのかはっきりする。いや、はっきりしてしまう......。うぅ。考えるだけで気が重くなってくるぅー。誰か助けて......。
私が心の中で悲鳴を上げていると、マリーちゃんが後ろにいる私達の方へ振り返った。
「二人とも準備はいい?」
「もちろんなの!」
「あっ......。うん」
シィーが私の反応を見て軽く首を傾げた。その直後、すぐに何かに気づいたかのように、ハッとした表情をすると、ニンマリしながら私の頬をツンツンと小さな指で突っついてきた。
「ぷぷっ! あれれー?? ねえねえ? もしかしてチカはビビってるの?」
う、うぜええぇ!! ......あとでシィーとはお話合いが必要なようだね。
私はジッーとシィーを見つめる。
シィーも私の視線に気づいたみたい。
見つめ合ったままゆっくりとシィーにむかって微笑む。怒りを抑えているせいか頬がピクピクする。
「ふふふっ......。シィーちゃん? あとで大事なお話があります」
「えっ......? えーと......」
シィーは頬をヒクッとひきつらせ、青い顔をしながらそっと目を横に逸らすと、蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
「......わ、私は話したくない気分なの......」
そんな私達の様子をみて大きな溜息をつくマリーちゃん。
「もう。二人ともいい加減にして。もう扉あけるよ?」
待たせてしまったことをマリーちゃんにしっかり謝ってから私達は部屋の扉を開けて中に入った。
部屋に入ると中央の地面に魔法陣が浮かびあがり、黒色の狼が姿を現した。
私はすぐにプロパティの魔法をつかって名前を確認した。
ブラックウルフ? なんだかシルバーウルフの色違いみたい。あっ、でも一回りぐらい大きいかな?
「マリーちゃん、シィー! 援護をお願い!」
私はふたりの前にでて、ブラックウルフに向かってブリュナークを構えた。
「ん! まかせて!」
「まかせるのぉー!」
『グルルルッ......。ガウガウッ!!』
ブラックウルフは唸り声を上げながら、私に向かって真っ直ぐに飛び込んできた。
ブラックウルフの鋭い爪が私に向かって振り下ろされる。
「よっと!」
私はひょいっと横に躱してからブラックウルフの横っ腹をおもいっきり切り裂いた。
『キャインッ!?』
ブラックウルフは悲痛な鳴き声をあげて床に倒れると、そのまま光の粒子になって消えてしまった。
「あれ? こんなに弱いの?」
「やったの! チカだけで十分だったの!」
「ん! さすがチカ。瞬殺」
「あっ! 二人ともそのままそこから絶対に動かないでね!!」
「「えっ?」」
私は二人に声をかけながら急いで隠し扉がある壁に手を伸ばした。
私の手が壁に触れると、壁がスッと煙のように消えさり、小部屋の入り口が姿をあらわした。
「「えええええっ!?」」
ふぅー! あぶないあぶない。なんとか間に合った。前から思ってたけど30秒って短すぎるんだよなぁー。
「マリーちゃん! メリィちゃんはどっちに行ったか分かる?」
「えっ? えっ? えーと......」
マリーちゃんは慌てて猫耳パーカーのポケットからサーチニードルを取りだして確認する。
「おかしいの! なんでチカは普通に話を進めてるの!? その部屋はなんなの!」
シィーは隠し部屋の方へ飛んでいく。
──えっ!? シィー何やってるの!?
慌てて私はシイーに向かって大声で叫んだ。
「シィー!! ダメーッ!!」
「ひゃっ!?」
シィーは可愛い叫び声をあげながら、ビクッ!と身体を震わせると、隠し部屋に入る一歩手前でとまった。
「急になんなんの!! 驚きすぎて心臓が止まるかと思ったの!!」
「シィー!! 一人で中に入ったら死ぬかもしれないからすぐに戻ってきて!!」
「えっ......? そ、それはもっと早く言ってほしかったの!!」
シィーは涙目になりながら凄いスピードで私の胸に飛び込んでくると、ギュッと服ごと私のお肉を掴んだ。
「いたたっ!! シィー!! お肉まで掴んでるから離して!!」
「いやなの!! 絶対離さねえのっ!!」
「イダダっ!? いやじゃないよ!! 早く離して!!」
私は痛みで涙がでそうになるのを必死に耐えながら、なんとかシィーを胸から引き離し、肩の上に座らせた。
うぅ。シィーのせいで胸がまだヒリヒリする。絶対アザになってるよこれ......。
「ん?」
私がヒリヒリと痛む胸を右手で軽くさすっていると、突然左手の裾を後ろから引っ張られた。振り返ってみると、マリーちゃんがいまにも泣きだしそうな顔で、唇を噛みしめながら私を見つめていた。
マリーちゃんの手のひらにあるサーチニードルに視線をやると、サーチニードルの指針が隠し扉の方向を指しているのが見えた。
おもわず私の顔がピクっと引きつる。
シィーのせいで最悪な形でマリーちゃんに伝わっちゃった!? あぁー。せっかく万が一の時に、どうマリーちゃんに伝えるかを必死に考えてきたのに。全部無駄になったじゃん!!
「チカ......。今のはどういうこと?」
「えーと......」
「ぐすっ......ねぇ......。私はお姉ちゃんを助けられなかったの......?」
マリーちゃんの瞳からボロボロと涙が溢れ、頬を伝う。
「うっ......」
私の胸と胃がギュッーと締めつけられるように痛んだ。
BOSSに挑んでなければまだ無事に生存している可能性はあるけど、最下層にいるのは間違いないから安全とは絶対に言えない。
今のマリーちゃんにこの状況をどう伝えればいいのかわからず、すぐに言葉が出てこない。
本当に誰か私も助けてください......。
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