第62話 漆黒の大迷宮を捜索①

 暗がりの草原で遺跡を眺めながら、私はそっと自分の胸に手を当てた。


「はぁ……はぁ……」


 心臓の鼓動が自分でも分かるぐらい速くなり、息切れが止まらない。


 一度ゆっくりと深呼吸をして、心を落ち着かせる。


「急にどうしたの? 大迷宮をみてから様子がおかしいの!」


「ん。チカ、大丈夫?」


 私を気遣う声に気づいて二人の方を見ると、二人とも心配そうに私を見つめていた。


「ふぅ......。大丈夫。私の知ってる遺跡にそっくりだったから驚いたちゃった」


「本当に大丈夫なの?」


「ん。心配。チカ無理してない?」


「うん。もう大丈夫だよ。二人とも心配かけてごめんね」


「気にすることないの!」


「ん。また何かあったらすぐ言ってね?」


「うん! 何かあったらそうするね。二人ともありがとう」



 私達はゆっくりと漆黒の大迷宮の入り口に向かって歩きだした。


 それにしてもこの遺跡、元の世界のゲームで彼女と一緒に攻略した最高難易度だった奈落の大迷宮にそっくりだ。


 私は歩きながら漆黒の大迷宮を見つめた。

 

 遺跡の真っ暗な入り口から背筋が凍るような異様な雰囲気を感じる。緊張からか喉が渇き唾を飲み込む。


 ゲームではこんなことはなかった。私は改めてここはゲームではなく現実なんだと実感した。


 大迷宮の入り口から中に入る。

 

 部屋全体が石造りの壁で造られており、通路が奥へと続いているが真っ暗で先が見えない。


「真っ暗でなにも見えないね......」

「ん。まかせて?」


 マリーちゃんが手をかざすと私たちの目の前に、辺りを照らす光の球体が出現する。


 暗闇の中でもこれなら問題なさそうだ。

 警戒しながら通路を進んでいく。


「それでこれからどうやってメリィちゃんを探すの?」


「ん。これを使う。」


 マリーちゃんは猫耳パーカのポケットから手のひらに乗るぐらいの大きさのコンパスに似た魔道具らしき道具を取り出した。


「マリーちゃん。それは?」


「ん。これはサーチニードルっていう魔道具。これにあらかじめ魔力を登録しておけば迷宮とかではぐれた時に、登録した相手の足取りを追うことができる。」


「おー。それは便利だね」


「ん。私とお姉ちゃんは念のため事前に登録してある。この針の示す方向がお姉ちゃんが進んだ道。私についてきて?」


「りょーかい」


「じゃあさっさと出発なの~!!」



◆◇◆◇



 マリーちゃんを先頭に魔物を倒しながら大迷宮の奥へと進んでいく。


 スライムとかゴブリンとかシルバーウルフという狼が数匹でてくる程度だったので、順調に下の階層へ降りていくことができた。


 しかし階層を降りれば降りるほど私の疑念は徐々に確信に変わっていった。



 ──この大迷宮を私は知っている……。



 大迷宮の名称や出現する魔物は全く違う。だけど次の階層へ続く階段の位置と罠の位置は私の知っている奈落の大迷宮と全く同じだった。


 どうしてこの世界にこの迷宮が存在するの?私が遊んでたゲームとこの世界は何か関係があるの?


 私の頭の中に次々と疑問が浮かんでくる。

 

 しかしいくら考えても答えなんて出てこなかった。


 はぁ……。考えても仕方ないか。またミリアーヌさんに聞きたいことが増えちゃったなあ。


 それよりも今はメリィちゃんだ。私の知ってる迷宮と同じなら、1~30階層の低層には転移トラップは2つしかない。それに転移トラップは完全なランダムってわけじゃないから居場所も特定できる。


 1つは8階層の通路にある転移トラップ。これは低層の25階層に飛ばされるだけだから問題はない。


 問題なのはもう一つの転移トラップだ。


 10階層のボス討伐後に30秒間だけ開けることができる隠し扉がある。その部屋の転移トラップだったら最下層の71階層に飛ばされる。


 私の世界でも最下層は敵が強すぎるから、あの隠し転移トラップは上位プレイヤーしか使ってなかった。


「チカ? 眉間にシワがよってるけど、どうかしたの?」


 シィーが私を見て不思議そうに首を傾げる。


 まだどっちか分からないけど早めに確認したほうが良さそうだね。


「二人ともごめん。わけは後で話すから少し先を急ごう」


「ん。分かった」

「急にどうしたの? ものすごく気になるの! 今すぐ教えてほしいの~!!」


 わがままを言うシィーを宥めながら、歩く速度を上げて、私達は大迷宮を進んでいった。


 急いだのもあって、1時間ぐらいで8階層に辿り着くことができた。


 マリーちゃんはサーチニードルを確認しながら慎重に奥へ進んでいく。


 しばらく進んでいくと先の方にT字路が見えてきた。


 あのT字路を左に曲がれば転移トラップ。右に曲がれば下の9階層に続く階段がある。


 確かギルドで聞いた話だと、中層間際まで伝令の冒険者が捜索したけどメリィちゃん達は見つからなかったって言ってたよね......。


 私はマリーちゃんの小さな背中を祈るような気持ちで見つめた。

 

 マリーちゃんはT字路で立ち止まると、手元のサーチニードルを確認してから右に曲がっていった。


 最悪だ......。こうなるとメリィちゃん達は中層に進んだか、10階層の転移トラップに引っかかったか、のどちらかってことになる。


 どちらにしても10階層の転送魔法陣のある部屋に入ればはっきりする。隠し扉は開けても、部屋の中にさえ入らなければ作動しないしね。


 でも万が一、マリーちゃんの持っているサーチニードルが隠し扉の方角を指したら、私はマリーちゃんになんて説明すればいいんだろう......。


 私の話を聞いたマリーちゃんの姿を想像しただけで、胸が張り裂けそうになる。



「ちょっとチカなにしてるの!チンタラしてるとおいてっちゃうの!」

「あっ。ま、待って! 今行くから」


 シィーに急かされながら、重い足取りで9階層に続く階段へ向かった。

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