第51話 Eランク冒険者になったよ!
お風呂でさっぱりして部屋にもどった。
「チカさん!」
窓から外を眺めると広場の方にある建物が炎に照らされてオレンジに色づき、目線を少し上にあげると夜空には満点の星空が広がっている。幻想的で凄く綺麗だ。
「なんで何事もなかったかのように窓の外を眺めているんですか!?」
はあ......。現実と向き合いたくないからだよ。
私は諦めてアージェさんの方を振り返った。
「どうしたの?」
「どうしたの? じゃないですよっ!! あれ妖精ですよね!?」
アージェさんが指差した方向を見ると、シィーがベットで横になって無邪気に笑いながら私に手を振っていた。
「あははっ! ごめんなの! まさかチカ以外の人間が部屋に泊まってるとは思わなかったから精霊魔法使ってなかったの」
「うん。妖精みたいだね」
「どうみても妖精ですよっ!!」
「かわいいでしょ?」
「はい。すごく可愛いです。......いや!! そうじゃなくて!! なんでチカさんと一緒に妖精がいるんですか!?」
仕方がないので簡単に事情を説明することにした。
アージェさんには妖精を見つけて話してるうちに気に入られて、契約することになったということにした。
加護や神気のことなんて絶対に言えない。どうなるか想像もつかないしね。アージェさんの態度がいまより悪化することだけは確かだ。
「さすがチカさんですね。まさか妖精と契約してしまうなんて.....」
「いや、そんな大袈裟な.....」
「大袈裟じゃないですよ!! 本当に凄いことなんですよ!? 私が知る限りSランクのセレンさんぐらいしか知りません。そもそも妖精は滅多に人前に姿を現してくれませんからね」
「ウシ人間はよく分かってるの! チカにも見習ってほしいの!」
ウシ人間って......。確かにアージェさんはスタイルがいいけどさ。
アージェさんに視線を向けてみると、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながら、胸を両手で隠してうつむいている。普段のクールな雰囲気とのギャップがあって凄くかわいい。
「あの......。妖精様。できればアージェと呼んでいただけないでしょうか?」
「了解なの! ウシ人間!」
「うぅ......。分かってないじゃないですかぁー......」
シィーはアージェさんの反応をみて、楽しそうに笑いながらお腹を抱えている。
「あっ! アージェさん。このことは内緒にしてね?」
「わかりました。ギルドでウシ人間なんて私も呼ばれたくないですからね......」
「うん。なんかシィーがごめんね......」
そろそろ夜も遅くなってきたので寝ることした。
私は明かりを消してベットに横になった。シィーはというと、私の枕元に横になっている。
街に帰ったらメリィちゃんにシィー専用の小さなベットを作ってもらえないか聞いてみようかなー。
◆◇◆◇
翌朝。
村長さんに妖精祭に参加させてもらったお礼とお別れの挨拶をして4人で村をでた。
「いやー! 初めて参加したけど妖精祭は楽しかったな!」
「ふふふっ。また来年も来たいね」
「ああ! 来年こそ俺が妖精と出会って契約してやるぜ!」
「あはは! ガルムじゃ無理なんじゃない?」
「なんだと!?」
エリーゼとガルムは仲良さげに談笑しながら私の前を歩いている。けど二人の会話を聞いてると、私が悪いわけじゃないのに後ろめたい気持ちになってくる。
ガルム君ごめんね......。もう妖精はいないんだよ。
ちなみにシィーは猫耳パーカのフードの中に潜り込んで、私の頭の上で寝ている。村を離れることに抵抗もないみたい。来年の妖精祭が本当に心配だ。
私もシィーを連れて来年も村に遊びにいこうかなー。
帰り道も魔物や盗賊に出会うことなくお昼過ぎにはニッケルの街につくことができた。こんなに楽でいいのかな?
4人でギルドに戻ってカウンターに向かう。
カウンターには少し疲れた顔をしたメアリーさんが座っていた。
またクマがいる。ギルドマスターになるための研修でもあるのかな?
メアリーさんにギルドカードを渡して護衛依頼について報告する。
「みなさん護衛の依頼お疲れ様でした。ギルドカードをお返ししますね」
私はギルドカードを受け取ってバックにしまう。いやーほんと観光みたいで楽しかったなあ。
「あっ! チカさん!」
「ん?」
「おめでとうございます。今回の依頼達成でEランクに昇格になります」
「ありがと」
まあ、Eランクになら昇格してもいいかな? もっと色々な依頼を受けてみたいし。
「じゃあこれで解散だな!」
「チカさんとアージェさん。今回はありがとうございました!」
「こちらこそありがと。二人ともまた一緒になったらよろしくね」
ガルムとエリーゼはギルドをでていく。
仲のいい二人だったなあ。今度会ったらもう少しゆっくりとお話したいな。
「じゃあチカさん。私達も戻りましょうか?」
「え? 私達?」
私がキョトンとした顔でアージェさんを見つめていると、アージェさんは不思議そうに首を傾げた。
「どうされましたか? そういえばチカさんはどこの宿に泊まっているんですか?」
「私は友達の家で部屋を借りてるんだよね」
「えっ!! 宿じゃないんですか?」
「うん。ごめんね?」
残念そうに溜息をつくアージェさん。
「それじゃ仕方ないですね......。あの! また一緒に組んでいただけますか?」
「うん。もちろん! でも今度は普通の部屋じゃないと嫌だからね?」
「うっ......。わかりました」
「じゃあ私は帰るね。今回はありがと!」
「こちらこそ色々教えてくれてありがとうございました!」
アージェさんは悪い人じゃないんだけど、もう少し普通に接してくれたらなあ......。
アージェさんと別れて屋敷に帰ると、食堂のほうがすこし騒がしい。
メリィちゃんの声も聞こえる。なにかあったのかな?
気になって食堂に行くと悲しそうにうつむいて椅子に座っているマリーちゃんの姿があった。
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