第40話 DQNは伝染するみたいだよ!


 ギルドマスターの部屋をでて受付カウンターがある広間まで戻ってきた。

 

 やっぱり周りから視線を感じる。

 

 気になって周囲を確認すると、冒険者達がコソコソ会話をしながらこちらをチラチラ見ていた。ただ遠すぎて何を話してるかまでは分からない。

 

 さっきからなんなの? 感じ悪いなぁ。


 無視して広間を進んでいると壁に貼ってある依頼に気がついた。

 

 この前はゆっくり見れなかったんだよね。どんなのがあるんだろう?


「メリィちゃんちょっとだけいい?」

「ニャ? どうしたのニャ?」

「少しだけ依頼を見てみたくて」

「なるほどニャ! 別に構わないニャ!」


 立ち止まって依頼を眺める。

 

 低ランクの依頼は街の掃除やポーションの材料採取が多いんだ。お? 魔物の討伐依頼もある。えーと。グレイスリザード?


「ねえねえ。メリィちゃんこのグレイスリザードってどんなのか知ってる?」

「たしか大きめのトカゲみたいなやつニャ!東の草原によくいるニャ」

「へえー。強いの?」

「そんな強くはないはずニャ! ホーンラビットより少し強いぐらいだから駆け出し冒険者にちょうどいい魔物ニャ!」


 なら今度行ってみようかな。

 

 私は依頼を剥がしてカウンターに向かった。カウンターには受付してくれた時の女性が座っている。


 たしかメアリーさんだっけ? あっ、私に気づいたみたい。

 

 受付のメアリーさんは私と目が合うと、深々と頭を下げた。


「チカ様。この度はご迷惑おかけしました」

「もういいよ。これ受注したいんだけどここで平気?」


 依頼の紙を受付のメアリーさんに渡す。


「はい。グレイスリザードの討伐ですね。ここで大丈夫です。討伐が終わったらあちらのカウンターに報告しに来てください」

「わかった。そうするね」


『おいおい。ガルーダを倒したって噂になってる英雄様がグレイスリザードの討伐かよ! こりゃ本当かどうかも怪しいなあ!』


 後ろから大きな声が聞こえたので振り返ってみると、10人ぐらいの冒険者が私を睨みつけていた。


「あなた達には関係ないでしょ?」

「そうだニャ! あっちいけニャ!」

「関係なくねえ! こっちはみんなお前の嘘のせいでランクダウンしてるんだぞ!」

「なんのこと?」


 私はおもわず首を傾げた。

 

「嘘なんてついた覚えないけど?」

「とぼけんじゃねえ!ギルドマスターをめてガルーダの討伐も他の冒険者の手柄を横取りしやがって!」


 ん? DQNマスターからなにか聞いたのかな?

 

 受付のメアリーさんが呆れた表情で立ち上がる。


「あなた達はなにを言ってるんですか。それはマスターの作り話だと何度言ったら分かるんですか?」

「そんなの嘘だ! こんなネコの格好したチビがガルーダを倒せるわけねえだろ!!」


 いまこいつチビっていったよね?


『やめないか。私達に功績がないのも、ガルーダの時になにもできなかったのは事実だ』


 女性の声がテーブルの方から聞こえたので振り返ってみた。

 

 赤髪の綺麗な冒険者さんだ。

 

 あれ? この人たしか門の前で集まってた冒険者に指示をしてた人だ。


「アージェは黙ってろ! 草原で震えてた奴が偉そうに!!」

「くっ。それは......」


「言いがかりもいいところだニャ! お前達の実力が元々その程度だっただけニャ。今までがおかしかったのニャ!」

「なんだと!? ふざけた格好で調子に乗りやがって!」


 冒険者の男がメリィちゃんに近づいて胸ぐらをつかんだ。

 

 この冒険者達もうダメだ。DQNは伝染するらしい。今まで過度に優遇されてきたから現状に納得できないんだ。はあ...。もう衝突は避けられそうにないね。


 私は猫耳パーカーのポケットから魔槍ブリュナークを取りだすと、思いっきり地面に向けて突き刺した。


 ドン!!っと凄く大きな音がして、ブリュナークが床に深々と突き刺さった。

 

 周囲からの視線が私に集中する。


「いい加減にしてよ。その手を離して」

「ああ? このクソガキ。Aランクの俺に向かっていい度胸じゃねえか?」


 そう言うと冒険者の男は私を睨みつけてきた。

 

 ふーん。チビの次はガキ扱いですか。そうですか......。


「元Aランクでしょ?」

「だまれ!! 俺はつええんだよ! それなのにお前のせいでCランクまで落ちたんだぞ!!」

「はあ......。くだらない」

「なんだと!?」

「メリィちゃん。離れててね?」

「わかったニャ!」


 私が槍に少しだけ魔力を込めると、稲妻が槍の周囲に絡みつき、輝きだした。


「お、おい! なんだそれは? お前なにをするつもりだ!!」


 冒険者達が立っている場所より少しだけ前方に向かって手加減しながら槍を投げた。


「うわっ!!」

「ぎやああああっ!!」


 槍が床に突き刺さった瞬間。衝撃で床は粉々に砕け散り、激しい爆風が冒険者もろとも周囲にあったものをすべて吹き飛ばした。


 広間が悲鳴と驚愕の声に包まれる中、槍が地面から勝手に浮き上がり私の手元に戻ってきた。

 

 おーっ。本当に戻ってくるんだ。メリィちゃんが言ってた通りだ。これは便利だね。


 私は壁に叩きつけられて床に倒れている冒険者達に近づいていった。


「まだ続ける?」

「ひっ......!」

「す、すまねえ! もうやめてくれ!!」



 うー。気持ち悪い。魔力も調節して手加減したのに。もう帰りたい。


「ニャハハ!とんでもない威力だニャ! でもギルドが滅茶苦茶だニャ!」

「え?」


 私は慌てて周囲を見渡して確認した。

 

 メリィちゃんの言う通り、遠くにあったテーブルや関係ない冒険者まで吹き飛ばされて床に倒れている。


 カウンターの付近では書類が至る所に散乱している。

 

 やばっ! これはやりすぎたっ!!



「おい。凄い音がしたがなんの騒ぎだ?」


 ギルド統括のお爺さんが扉を開けて広間に入ってきた。


「な、な、なんだこれは......」


 統括のお爺さんはギルドの惨状を見て驚愕の表情を浮かべて凍りつく。


 あっ。こっちに気づいたみたい。

 

 統括のお爺さんが私に気がつくとジッ〜と私を見つめてきた。


 私はきまずさから思わず目を逸らす。


「......何があったのか説明してもらえるかな?」

「はい......」



 私は今までの事情を統括のお爺さんに説明した。私の話を聞き終わると、統括のお爺さんは肩をすくめて溜息をついた。


「だいたいの事情はわかった。ヤツの影響は思ってたより深刻なようだ」

「ごめんなさい。」

「気にするな。やりすぎなところはあるが仕方ない。あいつらが難癖をつけて絡んできたんだからな。あいつらに修繕費も払ってもらうさ」


 よかった。逮捕とかはされないらしい。このお爺さんは話が通じる人みたいだ。今までが酷すぎたのかな?



 ◆◇◆◇


 統括のお爺さんにお礼を言ってから、私はギルドの出口に向かった。


「あ、あのっ!!」

「ん?」


 後ろから女性の声が聞こえてきたので振り返る。さっきの赤髪の綺麗な冒険者さんだ。アージェさんって呼ばれてたっけ?


「なに?」

「......どうしたらあなたのように強くなれますか?」


 どうしよう。わたし自身は強くないんだよ。でも本当のこと言ったら噂が広まって狙われるかもしれないし......。うん。絶対言えないね。


「私はそんな強い人間じゃないよ」

「そんなことありません! あなたは二匹のガルーダから街を救いました。さっきも大勢の冒険者達に囲まれたのに、たった一人で全てを吹き飛ばして撃退しました」


 関係ない人や物まで吹き飛ばしたけどね。もう忘れたいから言わないでほしい。


「わたしは強くなりたいんです。あなたのようにどんな状況でも負けない強さがほしいんです」


 そう言うとアージェさんは真っ直ぐな瞳で私を見つめた。

 

 なんかほっとけないなあ。彼女に憧れて追いかけてた昔の自分を見てるみたいだ。


「憧れに追いつけるように必死に追いかけ続けたらいいと思うよ」

「追いかけ続ける.....?」

「うん。私はそうしてきたよ。うまく言えなくてごめんね。じゃあまたね!」



 メリィちゃんと冒険者ギルドをでた。

 

 もう夕方になってたんだ。ずっと室内にいたから気づかなかったよ。


「ひとつ聞いていいかニャ?」

「ん?」

「さっきの話だけどニャ。チカは憧れに追いつけたのかニャ?」

「まだ追いつけてないよ」

「そっか。やっぱり憧れは遠いニャ......。さて、お腹も減ったし帰るかニャ!」

「そうだねー。私もお腹減っちゃった!」

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