第38話 お引越しだよ!


「やだあ!私もおねえちゃんと一緒にいくのぉ!」


 マイちゃんは泣きながら私に抱きついてきた。

 ジョンさんは困ったような表情でオロオロしている。

 いつも冷静なジョンさんがめずらしい。

 やっぱり小さい子には弱いのかな?



 昨日宿に帰ってから、メリィちゃんの家で一緒に住むことになったので宿を出ることをマイちゃんの家族に伝えた。


 それからマイちゃんはずっとこの調子だ。

 はあ...。困ったなぁ。

 一晩経てば落ちつくと思ったのに。

 小さい子が泣いてるの見るのは心が痛い。


「あらあら。マイはお母さん達とは一緒じゃなくていいのー?」


 マイちゃんのお母さんがカウンターの奥から出てきてくれた。


「ううっ。ぐすっ。それもやだあ。お母さんも一緒にいこ?」

「あら?じゃあそうしようかしら?」

「ええっ!?」


 マイちゃんのお父さんがカウンターの奥から驚いた表情でこちらを見ている。

 そうしようかしらじゃないよ!

 お父さんが泣きそうな顔になってるよ!


「ふふふ。チカさん冗談ですよ?」

「なんだびっくりしたよ!」

「ごめんなさいね。ほらマイもあまりわがまま言わないの。お父さん一人になって泣いちゃうわよ?可哀想でしょ?」


 マイちゃんはお父さんの方に振り返る。


「ううっ...。」

「マイちゃん。いつでも会えるよ。」

「おねえちゃん。ホントに...?」

「本当だよ。いつでも遊びにおいでよ。」

「いいの?」

「もちろんでございます。お嬢様方もきっとお喜びになります。いつでも遊びに来てください。」


 さすがジョンさん。

 私の意図を察してくれたみたい。


「マリーちゃんの怪我が良くなったら一緒に遊びにも行こうね!」

「わーい!いこうねー!絶対だよ!」

「うん。約束ね。」


 マイちゃんの頭を優しく撫でる。

 マイちゃんは嬉しそうに私を見つめながらピョンピョン飛び跳ねている。

 猫耳パーカーを着てるから小動物みたいでホントにかわいい。

 やっぱり連れて帰っちゃおうかな?


「ではチカ様。そろそろいきましょうか。」

「うん。マイちゃんまたね!」

「うん!おねえちゃんまたねえー!」


 マイちゃんの家族に今までのお礼を伝えてから二人の家に向かった。



 宿をでて20分ほど街を歩いた。

 遠くに二人の家が見えてきた。


「あちらがお嬢様達の家でございます。」

「す、すごい大きな家だね。」


 これはもう屋敷だよ。

 家なんて呼べる大きさじゃない。

 石造りで二階建ての大きな屋敷と広い庭園。

 少し高めの塀が屋敷を囲んでいる。

 門兵さん二人が門の前にいるのが見える。

 これ私の実家が何個はいるんだろ。


 門の前までいくと門兵さんがジョンさんを見て門を開けてくれた。

 庭園を抜けて屋敷の扉の前につく。

 なんか緊張してきた!

 ジョンさんが二人をお嬢様って呼ぶわけがやっと分かったよ。

 面白そうだから私もそう呼ぼうかな?


「ではチカ様。これから家の中をご案内致します。どうぞこちらに。」

「う、うん」


 ジョンさんが屋敷の扉をゆっくりと開いた。

 屋敷に中に入る。


『『 チカ様!いらっしゃいませ!! 』』

「おふっ。」


 屋敷に入ると玄関ホールで大勢のメイドさん達が綺麗に二列に並んでお出迎えしてくれた。

 驚いて変な声でちゃったよ!

 もっとささやかな感じでいいんだよ?


「あ、あのジョンさん。このすごい歓迎は?」

「メリィお嬢様から盛大に歓迎するようにとの指示でございました。」

「そっか。あっ。マリーちゃんの様子を見にいきたいんだけど大丈夫かな?」

「もちろんでございます。きっとお喜びになられますよ。」


 メリィちゃんとはお話をする必要がありそうだね。

 次の機会がもしあったらささやかにしてもらおう。



 ジョンさんにマリーちゃんの部屋まで案内してもらった。

 部屋のドアを開ける。

 マリーちゃんはベットで横になってお休み中だった。

 私は部屋の中を見渡す。

 ネコのテーブル。

 ネコの椅子

 ネコの形をしたベット

 ネコネコネコネコ...。

 どんだけネコが好きなの?

 ネコ以外を探すことのが難しいよ。


 部屋を眺めながらベットに近づていく。

 マリーちゃんは私に気がつくとベットから起き上がろうとした。


「チカ来てくれたの?」

「わっ!そのまま寝てていいよ!マリーちゃん体調はどう?」

「ん。まだ少し気持ち悪い。」


 マリーちゃんを見つめる。

 んー。まだ顔色がよくないなあ。

 今はあまり長居しないほうがいいよね。

 一緒に住むからいつでも会えるし。


「マリーちゃん。じゃあ私はいくからゆっくり休んでね?」

「ん...。せっかく来てくれたのにごめんね。また来てくれる?」

「ん?」


 噛み合ってるようで噛み合ってないような...。

 メリィちゃん伝えてないのかな?


「ちか?もしかして嫌だった...?」

「違うよ!メリィちゃんから聞いてない?」

「ん?なにを?」


 マリーちゃんは目をパチパチさせながら首を傾げる。


「今日から私も一緒に住ませてもらうことになったんだよ。」

「おー!初耳。これでいつでもチカに会える!」

「うん!だからゆっくり休んでね!」

「ん!早く治す!」


 マリーちゃんは目を輝かせながらウンウンと頷いた。

 マリーちゃんの頭を優しく撫でて部屋をでる。



 部屋をでると廊下でジョンさんが待っていてくれた。


「ではチカ様。簡単に屋敷の中をご案内いたします。」

「ありがと。よろしく!」


 ジョンさんの後に続いて廊下を進む。

 大きな食堂、広間、メリィちゃんのお部屋と順番に案内してもらった。

 広間には暖炉があってすごくオシャレだった。

 ネコはいなかった。

 マリーちゃんの部屋だけだったみたい。

 ネコ屋敷じゃなくてよかったよ。


「最後にチカ様に使っていただくお部屋がこちらになります。」

「色々案内してくれてありがとー。」

「いえいえ。ドアの前にメイドが一人待機しておりますので、なにかあればすぐにお呼びください。私は店に戻りますので失礼致します。」

「えっ?」


 ジョンさんは廊下を歩いていなくなってしまった。

 メイドさんに視線をむける。

 私と同じぐらいの年齢かな?

 ショートの青髪でクールな雰囲気の女性だ。

 メイドさんと目が合った。

 凄く綺麗な姿勢でペコっとお辞儀してくれた。

 反射的に思わずお辞儀を返す。

 こうしてても仕方ないし部屋に入ろうかな。

 どんな部屋だろ?

 大きい屋敷だしすごく楽しみだ。



 部屋のドアを開けて中に入る。

 宿屋の部屋より3倍は広い。

 大きめのベットとテーブルとソファーまである。

 すごくいいお部屋だ。


 でもどうしてこの部屋だけ全部ネコなの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る