第30話 漆黒の槍


 ガルーダは突如発生した光に驚き攻撃を中断して上空に舞い戻った。


「な、何が起こったのニャ?」


 まばゆい光は次第に消えてゆき、漆黒の槍が地面に突き刺さった。

 すべての光を吸い込んでしまいそうな絶望的な漆黒。

 槍を眺めているだけで恐怖すら感じる。


 私は目を開けて目の前の槍を引き抜いた。

 あの日。彼女から譲り受けた時と同じように槍からまったく重さを感じなかった。

 間違いない。


 ── 私の憧れた彼女の槍だ...。


『グルルル!』

『グギャアア!』


 ガルーダは上空から巨大な翼を大きく羽ばたかせて再び襲いかかってきた。

 上空を見上げてガールダを睨みつける。

 もう誰も傷つけさせない。

 あの頃の彼女のように今度は私が...。


「私が二人を守るんだあぁぁ!!」


 槍を握った腕に渾身の力を込めてガルーダに向かって投げ飛ばした。

 手からはなれた瞬間。

 漆黒の槍は目もくらむような白い光と熱を発し、稲妻を纏って疾風のよう飛んでいく。


『グギャッ!?』


 上空で飛んでいたガルーダの体を抵抗なくつらぬいた。ガルーダは苦しみながら地上に落下してゆく。


「ガルーダに大穴があいたニャ!!あの槍はどうなってるニャ!?」

「ん...。それにとても綺麗..。」


『グギャアアー!!』


 もう一匹のガルーダは慌てて街の外に向きを変えて飛び去ろうとする。



「逃げられないよ。」


 彼女の槍が敵を逃したことなんて一度もなかったからね...。

 私は上空に飛ばした槍の軌道を見つめる。

 槍は自動的に軌道を変えながらもう一匹のガルーダを背後からつらぬいた。


「やったニャァァ‼︎凄すぎるニャ!!」

「ん...。ぐすっ...。まるで絵本にでてくる勇者様みたい...。」



 突然全身から力が抜けていく。

 えっ...。

 なにこれ...。

 あー、そっか...。

 確かあの槍魔力を...。



 私は地面に倒れて意識を手放した。





 ー 西の草原 ー


 シルバーウルフ討伐隊リーダー

 冒険者:アージェ


 私は東の草原から討伐隊を率いて急いで街にもどった。だけど悲鳴が響き渡る街の中で、あの化け物達の姿を見て恐怖で逃げ出してしまった。

 気づいたら西の草原にいた。


「Aランクの冒険者が聞いて呆れるぜ。」

「肝心な時に震えてるだけでなんの役にも立ちやしねえ。」


 街の人達の話し声が聞こえてくる。

 私は膝を抱えて顔をうずめた。

 好き勝手いって。

 あんな化け物勝てるわけないじゃない...。


「おいあれをみろ!」

「ガルーダが!」


 ガルーダと聞こえて身体が無意識に震えた。

 私はゆっくりと顔を上げて街の方角を見つめる。


 夕暮れの街の上空にガルーダが巨大な翼を羽ばたかせている。その背後からまばゆい白い光と稲妻を纏ったなにかがガルーダをつらぬいた。


「おい!!ガルーダが地上に落ちたぞ!」

「誰かが倒してくれたのか!?」


 街の人々の大きな歓声が草原に響き渡る。

 ほとんどの冒険者が草原に避難していたはずなのに。

 いったい誰が?


「誰だか分からないが、あの二匹のガルーダを倒してくれたんだ。この街の英雄だ!!」

「早く戻ってみんなを助けにいきましょ!」


 街の人達は明るい表情を取り戻し、街に向かって走り去っていく。


 英雄。

 私は英雄に憧れて強い冒険者を目指してたはずなのに...。



「ば、ばかな。こんなことをいったい誰が。」


 ギルドマスターは驚愕の表情で口をパクパクさせながら街の方角を見つめていた。

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