第9話 姉妹の過去と猫耳パーカー
メリィ視点
夕食を食べて自宅にもどってきた。
私は今日出会った女の子のことを考えていた。
(ふしぎな子だニャ。)
それがチカに感じた印象だ。
私の口調や私達姉妹の服装について特に気にするそぶりもなかった。
『猫耳パーカー』
マリーは勇者様の服といっているが正確には過去の勇者様の服を参考にしてアレンジされたオリジナルの服だ。
王都にも着ている人なんていない。
私とマリー。
あとは街で私達と交流がある小さな子供くらいだ。
なのにチカは特に疑問を感じている様子はなかった。
チカが着てた服装もそうだ。
王都ならわかる。
しかしギルドもない田舎から、勇者様の服をきてくるだろうか。
◆◇◆◇
マリーメリィ商会は元々はお父さんとお母さんが夫婦で営んでいた。
「ねえねえ! 海に連れて行ってよー! どうしても行きたいの。美味しいお魚も食べられるんだって! きっと楽しいよ?」
マリーがまだ小さい頃。
近所に住む友達に自慢されたのがよほど羨ましかったのか、マリーはここのところずっとお父さんにお願いしてた。
商会を立ち上げたばかりで忙しい中、お父さんはマリーのために仕事の日程をなんとか調節して、家族を港町に連れていってくれた。
マリーが海辺でとても楽しそうに笑っていたのを今でも覚えている。
港町からの帰り道。
盗賊に襲われて両親は殺された。
マリーは奴隷商にでも売るつもりだったのか拘束されるだけですんだ。
「リーダー! 姉のほうはどうします?」
「そいつはいらねえ。消せ」
もうダメだと思った。
死を覚悟したそのとき、盗賊の一人が燃え盛る炎に包まれた。
『大丈夫ニャ! 私がきたからもう安心ニャ!」
綺麗な猫耳の獣人の女性が目の前にいた。
雪のよう白く綺麗な髪に黒い瞳と漆黒の鎧。
自信に満ちた太陽のように眩しく優しい笑顔だった。
襲いかかる盗賊達の攻撃を避け、素早く剣を振り一閃していく。
まるでマリーが大好きな物語に出てくる勇者様のように......。
私達は彼女のおかげで無事家に帰ってくることができた。
彼女にはいくら感謝しても足りない。
◆◇◆◇
「私のせい。ごめんなさい..。」
両親を埋葬した日、マリーは肩を震わせ瞳に涙を滲ませて、ずっとうつむいていた。
あれから明るかったマリーから表情は消え、口数も少なくなり部屋に閉じこもるようになった。
私は必死に考えた。
マリーのためにできることを。
両親の死を乗り越えて、少しでも前を向いてほしかった。やれることはなんでもやった。
両親の代わりに頑張って商会も立て直した。
マリーに少しでも元気になってほしくて、勇者様と彼女をイメージして【白色の猫耳パーカー】を作った。話し方も私達を助け街につくまで元気づけてくれた彼女をマネてみた。
彼女のように今度は私がマリーを救いたかった。
私は毎日マリーに声をかけ続けた。
これ以上自分を責めてほしくなかった。
──マリーが部屋からでてきてくれたときは涙がとまらなかった。
彼女はマリーにも大きな影響を与えた。
自分で黒色の猫耳パーカーを作っていつも着るようになり、積極的に魔法の練習をするようになった。
マリーも彼女に憧れているんだと思う。私達にとって彼女は、勇者様と同じぐらい特別だから。
◆◇◆◇
新たな勇者様が召喚されて、王都で勇者様の服を着るのが流行っていることを知ると、マリーは猫耳パーカーをたくさん作って出かけて行った。
王都で流行っていれば、商人を通して街にも噂は流れてくる。
その噂を聞いて街でも同じように流行ることが多い。
私達の特別をみんなにも喜んで受け入れて欲しかったんだと思う。
でも猫耳パーカーは『私達の勇者様』の服だ。
今までの勇者様がかわいい猫耳パーカーを着て冒険をしていた記録や本があるわけではない。
悲しそうにうつむきながら帰ってきたマリーを見たときは胸が張り裂けそうだった。
──今日のマリーの嬉しそうな微笑みを思い出して、つい口元がほころぶ。
「あんなに嬉しそうなマリーは本当に久しぶりにみたニャ......」
どうかこれからもマリーが笑顔で過ごせますように。
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