第7話 この日わたしは猫になったよ。

 女の子と言われたことは否定しないでスルーすることにした。


 もしかしたらこの世界では、私ぐらいの年齢はまだ女の子なのかもしれない。うん。それ以外考えられない。仲良くなったら聞いてみようかな?



『マリーメリィ商会』は武器防具だけではなく、街の人が普段着ている服や回復ポーション、魔道具など幅広く取り扱っているみたい。


 メリィさんとマリーさんのほかにも、従業員さんが何人も働いてる。


 もちろん全員が猫耳だ。渋い感じのおじいさんまで猫耳をつけている。笑わないように気をつけないと。我慢できるかな......。


 それにしてもここの従業員さんはホント大変だ。いくらお給料が良くても、私は恥ずかしくて絶対できないよ。


 私が従業員さんを眺めていると、メリィさんがニコニコした笑顔で私に近づいてきた。


「お嬢ちゃん。ちょっといいかニャ?」

「どうしましたメリィさん?」

「礼儀正しい子だニャ! でももっと砕けた感じで話してくれていいニャ! さんもいらないニャ!」

「ん。私もマリーでいい」


 メリィちゃんがそう言うと、マリーちゃんも隣でウンウンと頷いている。本当にかわいい子だ。


「ありがとう。それじゃメリィちゃんどうしたの?」

「よかったらでいいんだけどニャ! チカがいま着てる服を売ってもらえないかニャ?」

「私の服を? どうして?」


 周りを見渡すと強そうな防具や、街の人達が普段着るような服もたくさん店内に並んでいる。


「チカの服は勇者様が着てた服にそっくりニャ。いま勇者様の服は王都で大人気なのニャ!勇者様も変えの服を欲しがってるそうニャ」


「そうなんだ。んー、どうしようかなぁ」


「私としても今後の商品の参考にしたいし、金貨3枚でどうかにゃ?」

「ん。私もチカに服をプレゼントする。それでどう?」

「めずらしいニャ! マリーがそんなこというなんて久しぶりニャ。よっぽどチカのこと気にいったのかニャ?」


「ん。チカは勇者様の服が大好き。マークがそう言ってた。だから同志」

「マークさんって?」

「街の門で兵士をしている目つきのわるい奴ニャ」


 あー。あの人か。たしかに目つきが悪くて怖かった。彼には絶対ネコが必要だと思う。


「それはそうと、どうするニャ?」


 少し悩んで。


「メリーちゃんありがとー。じゃあ食事ができる美味しいお店とか教えてくれるならいいよー?」


「おーっ! ありがとニャ!! 勇者様がいる王都と違ってあまり参考にできるものがなかったから助かるニャ。お店の案内も任せるニャ! せっかくだし一緒にいくニャ!」


「ん...。私もいく。チカ楽しみにしてて」


 なんていい子達なんだろう。マリーちゃんが選んでくれる服も楽しみだ。



◆◇◆◇


 メリィちゃんから金貨を受け取り、バックの中にしまっていると、マリーちゃんが黒色の服を手に持って戻ってきた。


「これ。チカにぴったり。私が作った。着てくれる......?」

「うん! マリーちゃんありがと。すごく嬉しい! 大事に着るね」

「大事に......。はじめて言われた」


 ん? もしかしてこっちの世界ではこういう感じには言わないのかな?


 少しマリーちゃんの反応が気になりつつ、

 受け取った服をひろげてみた。


』だ。


 困った......。

 恥ずかしくて、このかわいい黒猫パーカーを着る勇気が私にはない。22歳でこれを着るのはもう罰ゲームだよ!


 これは大事にバックにしまっておこう。



「わわっ! マリーがこんな顔するなんて久しぶりニャ。私もうれしいニャ!」


 メリィちゃんの声でふと我に返り、服から視線をもどして、私もマリーちゃんのほうを見てみる。


「ん......。わたしとお揃いの黒猫パーカー。可愛いのに誰も着てくれなかった。でもチカは大事に着てくれる...... 。すごく嬉しい」


 よほど嬉しかったのか、いままでほとんど無表情だったのに、マリーちゃんは恥ずかしそうに目を伏せめがちにして私をみてわずかに微笑んでいる。


「......」


 私はマリーちゃんに笑顔を返して、静かに試着室にはいった。


 だめだ......。もうバックにしまえない。恥ずかしさを我慢して猫になるしかない......。



 ──この日わたしは猫になった。

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