第18話 海岸の女

 領地は上手く経営できていた。

 私が直接、指示することも無くなった。

 ・・・暇人へ逆戻り。

 (仕方がないわね・・・)

 私はバカンスをすることにした。

 久しぶりに執事達とノンビリとした時間を過ごすことにした。働きづめは良くない。たまには休暇も必要だ。国は民がいれば、なんとかなる。


 「貴方達に言いたいことがあるの。・・・今まで頼りない私に付き添ってくれてありがとう。たとえ私に何が起きても、貴方達は私の家族だからね。未来でもズーッとよ。・・・約束よ」

 私は自分で言ったのに恥ずかしくなった。

 執事達は涙を流してくれた。この絆が不思議な縁で結ばれているとは想像もできなかった。


 錨を下ろした船で、昼寝をすることにした。

 突然、心地よい風が急に冷たくなった。

 空は暗くなり、雷鳴が聞こえる。

 (マズイ、嵐がくる・・・)

 手遅れだった。船は沖へ流されて行った。陸がみるみるうちに遠ざかる。波が高い。大粒の雨が船を叩きつける。

 「キャー」

 私は海に投げ出された。波がのみ込んだ。

 「占姫様ー」

 執事達の声は私に届いていなかった。私は再び闇にさらわれた。


 海岸に女が砂浜に打ち上げられていた。

 「おい、リーチ。いたぞ!」

 「流石です。カンゾー」

 「気を失っているみたいだな・・・」

 「ち、ちょっと・・・ハンジ。何をしているの!」

 「何って、見たら分かるだろう。人工呼吸だ!」

 女を助けるために躊躇が無い。ブチュっと口を合わせて息を送り込む。

 「ハンジ退きなさい! 続きは私がするわ」

 女に馬乗り。ナオミは心臓マッサージを始めた。

 人工呼吸とマッサージを繰り返す。その女は溜まっていた水をゴホっと吐き出した。

 「ひ、姫ちゃん。聞こえる!」

 馬乗りのまま、パシッと女の頬を叩くナオミ。女は頬が赤くなっていた。

 「う、うーん・・・」

 「お、気がついたようだな」

 男達はナオミと女を見守っていた。

 「わ、私。・・・生きているの? ここは、いったい?」

 「姫ちゃん、私が見える?」

 馬乗りのままナオミは私に確認した。

 「ありがとう、ナオミ。ち、ちょっと退いてくれる?」

 「あっ、ご、ゴメン」

 恥ずかしながら、手を差しのべて私を起こしてくれた。

 「どうして貴方達はここにいるの?」

 「あぁ、それな・・・」

 「カンゾー、話は後だ!」

 「・・・しつこい奴等だ」

 「取りあえず、逃げるか?」

 「・・・バカなの? 逃げられる訳がないわよ。ここで迎え撃つ!」

 「・・・面倒だが、それしかないか」

 「来るぞ! 姫ちゃんを守れ!」

 黒服を着た者達が、私を再び始末しようと迫ってきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る