第8話 代理の女

 屋敷に一際、目立つ男。頭が眩しい。

 私は王様に願い出て、彼を執事の一人にしてもらった。王様が遊びに来る時、彼のお茶を振る舞うのが、定番となる。王様もお茶に満足している様子。茶菓子もリキュールが季節に合わせて変えた。

 なかなか、お茶の世界は奥が深い。彼を紹介してくれた猿に感謝。

 (猿顔の大臣だった。・・・ごめんなさい)


 私は執事達にコードネームを名乗らせている。セーンはリキュール。他の執事には「ウォッカ」、「ジン」、「テキーラ」と名乗らせている。主人の私が偽名の「ヒミコ」を名乗っているのだから、本当の名前は名乗らせないことにした。その内、彼らも慣れるだろう。


 ある時、王様が「都に遊びに行く」と言うので同伴。執事達も私の護衛として連れていくことにした。

 馬車に乗り込み出発。

 (本当に遊びに行くのだろうか?)

 私は頭に「?」マークが付いていた。王様の馬車には、まるで都に攻め込むような鎧兜を被った兵士達。護衛にしては物々しい。私の馬車は執事達が周りを警戒しているだけだ。

 私は気づいてしまった。

 時の人となってしまった王様の「首」がワザワザ出向いてくれるのだ。待ち伏せしていればいい。まるで鴨がネギを背負ってくるようなもの。ハンティングするだけだ。

 (私はバカだ。もう少し早く気づいていれば・・・)

 馬車はもう動き出している。都に着くか、襲撃されるまで止まることはない。

 (そうだ)

 私にはアレがあるではないか! 私の力。早速、占うことにした。私の横にいる大臣の運勢を占った。結果は・・・。


 馬車は峠に差し掛かった所だった。峠の茶屋で休憩することになった。

 (ふー。疲れた)

 私は不意に馬車から降りた。

 その時、木の影が動いた気がした。

 (な、何?)

 「覚悟ー!、ノブナーガ」

 複数の刺客が現れた。一斉に武器を構え、次々と襲ってくる。

 私は逃げようと慌てて転んだ。頬被のせいだ。よく周りが見えない。王様から「都に着くまではそうしていろ」と言われていた。

 (痛い!)

 刺客は何故か私を目標に襲ってきた。王様からは「何が起きても声を出すな!」と言われていた。声が漏れそうだったが、必死にこらえていた。

 刺客は私を王様と勘違いしている様子。

 執事と大臣が応戦したので、難を逃れた。

 (こういうことだったのね・・・)

 王様は私を身代わりにした。普段、王様の使っている馬車に私を乗り込ませ、私の馬車に王様が乗っていた。

 (都に着くまでに、何回襲われるのだろう?)

 占いでは小アルカナが多かったので、「日常的な不運」と出ていた。

 (戦国の世ではこれが日常なのね・・・)

 なんて所に来てしまったのだろう。

 私はまるで悲劇のヒロインであった。

 (お願いだから早く都に着いてよ・・・)

 その後も何度も襲撃された。その度、恐怖で顔が青ざめる。運がいいのか? 悪いのか? 私はまだ生きています。

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