第9話 武将の女

 ・・・無事に都へ到着した。

 (私はどれだけ肝を冷やしたことか・・・)

 私の乗り込む馬車は見事にボロボロ。槍、刀、手裏剣が刺さっている。返り血を浴びて、赤黒い馬車。どこの戦場で戦ってきたといわんばかりの姿だった。平和な都の人々にジロジロと見られた。

 (よく生きていたな。私・・・)


 今日の宿泊先は五つ星ホテルだった。「ザ・ホンノージ」と呼ばれていた。

 (焼き討ちなんて、されたりしないわよね・・・)

 私の知っている歴史では、織田信長が明智光秀により謀反され、脱出不可能と悟り自害した場所と記憶している。

 (まさかね・・・)

 たまたま名前が一緒なだけで、警戒していては親切にしてくれるホテルマンに申し訳ない。失礼のないようにしよう。

 (そうだ!)

 私には占いがあるではないか・・・。

 部屋に入り、早速占った。

 (・・・どうなるのかしら?)

 結果は大アルカナが多く出た。やはり、私には重要な出来事となるようだ。

 正位置で「戦車」、「世界」が出ていたのでホッとした。私はまだ運があるということだ。

 ベッドで腰を掛けているとコンコンコンとドアを叩く音。

 (誰だろう?)

 のぞき窓から確認。そこには猿がいた。

 (キャー、何で五つ星ホテルに猿が紛れ込んでいるのよ!)

 「? ・・・ヒミコ、いないのか?」

 もう一度、確認。

 ・・・よく見ると大臣だった。ガチャッとドアを開いた。

 「何か用ですか? 大臣」

 「いや、用事ではないのだがな・・・。都観光でもどうかなと誘いにきたのだ」

 「・・・はい、ついていきます。丁度、気分転換がしたかったの。ありがとうございます」

 「うむ、では早速行こう!」

 「それでは少しだけ出かけます。リキュールとウォッカ、ジンはここで待機ね。テキーラは私に同行しなさい」

 「ハイ、分かりました」


 このテキーラだが、私のメイドでありながら戦場を駆けめぐる武将だった。名前はナオトーラ。男まさりのところがあり、乙女の部分もある。そんな彼女を私はテキーラと名づけた。

 男ばかりの執事達より、紅一点でもいてくれると何かと助かる。私の話相手でもある。女性には女性の悩み事があることを彼女は理解してくれる。私が一番頼りにしている者。


 大臣に連れられて大通りを歩いている。

 (流石、都ねー)

 田舎者ではないのだが、キョロキョロと街並みを眺めて観光を楽しんでいた。時代劇さながらの雰囲気。太秦以外では初めてだった。都の人々は輝いていた。活気があふれる声が至るところから聞こえる。

 (時代劇か・・・)

 そうであって欲しかった。「はー」とため息を吐いた。

 その時、テキーラが何かに気がついた。

 「ヒミコ様、気をつけてください。何者かに尾行されております」

 「・・・そう。それならば気づいていないフリをしましょう。貴女は大臣にそれを伝えなさい」

 「はい、分かりました」

 テキーラは大臣に耳打ちをしていた。大臣は笑顔で私に近づいてくる。追手に気づかれないためにだ。横に来て小声でしゃべりだした。

 「・・・何か策でもあるのか?」

 「大臣、走って逃げるわよ! ついてきて・・・」

 私達はテキーラに護衛されながら走って逃げた。

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