第3話 金的の女

 大臣室で事件は起きていた。

 (誰か助けて・・・猿に襲われる)

 壁際まで逃げた。怖くなり、震えていた。

 助けを呼びたかったが、恐怖で声がでない。

 大臣が、じわりじわりと近づく。

 (キャー。や、止めて・・・)

 背中には壁。足がガタガタと震える。顔面蒼白。大臣が壁をドンと叩く。人生初の壁ドン。

 (それがこの猿なんて・・・)

 私は自然に身体が動いていた。

 突然の金的攻撃。まさかの反撃に大臣は泡を吹いて、もん絶。

 (今の内に、逃げなくっちゃ!)

 大臣が倒れた付近には鍵が落ちていた。

 (まさか・・・)

 枷を外すための鍵? でも・・・。

 手首には枷が、はめられたままだ。床にキスをした。

 何とか口で拾うことに成功。まだ喜べない。

 (この状況をどうするのよ?)

 直ぐに閃いた。

 口から鍵をテーブルの上にプッと吐き出す。

 それを手で持った。

 後ろにある手枷では、どうすることもできない。

 (一か八か・・・)

 手の間に足を通してみた。意外と私は軟体だった。

 何とか身体の前に手枷を持ってこれた。口を上手く使い手枷を外した。こそこそと忍び足で部屋を移動。扉の前までやってきた。・・・本日、二度目の壁ドン。

 (あっ、ヤバイ・・・)

 ソーッと後ろを見た。大臣が怒っている。今も股間が痛そうだった。

 身体をソファに突き飛ばされる。

 (い、いやー・・・)

 私は目をつぶった。覚悟を決めた。犯されるくらいなら・・・。

 しばらく無言で大人しくしていた。

 大臣は私に近づいてこなかった。

 (あれっ? た、助かったの?)

 薄目を開けた。

 大臣は向かいの席でティーカップにコポコポと紅茶を注ぐ。

 「そろそろ、座り直したらどうだ?」

 私の行動はバレていた。渋々、この大臣の言う通りにした。

 私は、落ち着きを取り戻した。差し出された紅茶をいただいていた。

 「落ち着いたか・・・」

 「ハイ。・・・そ、そのー。ごめんなさい」

 「いや、こちらも挙動不審だったな。申し訳ない」

 照れくさそうに髪の毛をさわる猿顔の大臣。

 私の方が恥ずかしくなった。

 それに乙女がそのー・・・き、金的攻撃なんて・・・。なんてことをしたのよ。忘れようと紅茶を飲み干した。また、さりげなく紅茶がティーカップに注がれる。

 「ところで、いったい君はどこの国のお姫様なんだい?」

 (ひ、姫様ですって・・・)

 うーん? 私はただの学生。お姫様ではない。この国の衣装とは違う服装をしているだけ・・・。

 (そ、そういえば。私はいったい、ここはどこなの?)

 「あのー、この国の名前は何?」

 大臣は困った顔をした。まさか知らないのかという顔。

 「この国の名前はニポーン王国。この地はオワーリ領。私は大臣のヒデヨーシ。さっきの役人がミツナーリだ」

 (どこかで聞いたような・・・)

 戦国時代へ私は飛ばされたのだろうか?

 「私は・・・」

 名前を名乗るのをちゅうちょした。

 (ちょっと待って・・・)

 正直に名乗っていいものか? いかがわしい名前の国名に地名、それに秀吉に三成ですって・・・。

 (本当のことは、できるだけ隠すのが得策ね)

 偽名を名乗ることにした。普段、SNSで使っている名前を言うことにした。

 「私はヒミコよ。周りからそう言われている」

 「そうか・・・ヒミコか。いい名前だ」

 「そう。・・・ありがとう」

 この大臣は顔が猿なだけで、いい人のようだった。

 (それに私を襲わなかったからね)

 一時はどうなるかと思ったが、何とか無事生きてます。

 (そもそも、なんでこうなったのよ!)

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