第10話『グーグルアース・馬場町・1』


大阪ガールズコレクション:10


『グーグルアース・馬場町・1』  






 定額給付金の十万円でパソコンを買い替えた。




 今までは、Windows7の古いノーパソで、Yahoo!やグーグルのウィンドウを三つも開けると熱を持ってビックリするくらいの音で冷却ファンが鳴りだすと言う代物だった。Windows7のサービスも終わったので、この際にと買い換えた。


「中古のゲームパソコンがいいですよ」


 図書室のパソコンで調べていたら、司書の岩波さんが教えてくれた。


「CPもグラフィックボードにも余裕があって、動画見たりグーグルアースとかに便利ですよ(o^―^o)」


 十五歳も年下の司書さんは、あっという間にスマホを操って、オークションサイトで条件に合うゲームパソコンを見つけてくれた。


「一世代前だけど、グラボ(グラフィックボードの略らしい)も1060だし、その気になったらVRもできますよ」


 で、その場で自分のスマホを取り出して、岩波さんのアドバイスのもとに中古ゲームパソコンを買った。




 グーグルアースがサクサク動くのが嬉しくて、青春時代……と言っても、大人しめだったわたしは、ほとんど家と学校の往復だけ。それでも、就職してから二度の引っ越しをしているので、昔住んでいたと言うだけで懐かしい。


 通学に使っていた地下鉄都島駅を出してみた。橙色の人形をドラッグして駅のある交差点に下ろしてみる。


 とたんに平面だった地図は霧がかかったように白くなったかと思うと、次の瞬間には交差点の真ん中の写真になる。


 たった二十年だから、交差点の様子に大きな変化はない。


 交差点の真ん中からは、北と南の出入り口が等しく見える。正確には〇号出口とかいうんだろうけど、友だちや身内では「北の出口」とか「南の方」とか言っていたので、そうとしか言えない。


 そうだ、桜町商店街に同級の子が居て、お喋りが停まらない時は南の出口から出て、わざわざ大回りして帰ったっけ。美容院の子で……名前が出てこない。歳かな? 学年が変わったら疎遠になったんだっけ?


 ま、いいや。


 マウスを右から左に動かすと、景色がグルンと回る。


 前のノーパソは、ここで時間がかかった。景色が真っ白になって、モザイクが現れて、それがだんだん細かくなって、普通の写真になるのに数十秒。それが、ほんとうに交差点でパンしたみたいに景色が回る。感動する。


 あ……このアングルには憶えがる。


 そうだ、間島先輩のあとを付けて、わざわざ天六で同じ電車に乗り換えて、ストーカーみたいに付いて行ったんだ。


 ほとんど封印していた記憶が蘇る。


 地下鉄の路線をたどってみようと思ったけど、やめた。


 間島先輩のあれこれを思い出して、かえって辛くなる。


 ま、グーグルアースだったら、いつでも行けるもんね。




 ゲームパソコンに慣れたころ、岩波さんがプレゼントをくれた。


 VRを買い替えたので、型落ちの、でも、わたしにとってはドラえもんの道具みたいなものだった!


 



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