第9話『北区梅田 茶屋町・2』


大阪ガールズコレクション:9


『北区梅田 茶屋町・2』 






 大阪駅で下りて改札に向かう。




 エスカレーターに乗ると、二段前の人のスマホが見える。


 小さい画面なんだけど、チラリと見えたネットニュースの表題に時めいた。


―― 梅田北ヤード再開発現場で1500体の人骨発見! ――


 なんと、いま下っているエスカレーターから直線距離で百メートルも離れていないところに1500人分の人骨が発見されたというのだ。


 茶屋町に向かうついでに覗いていこうと思った。


 北出口に出たところでスマホで確認。




 なるほど、大坂七墓と言って、今の大阪市に七つの大きなお墓があって、江戸時代は『七墓巡り』なんてオリエンテーリングみたいなこともやっていたらしい。


 ラッキー!


 スクロールすると、ちょうど三十分後に現説(現地説明会)が行われるらしい。


 ちょうど青になった横断歩道を渡って発掘現場に向かった。


 ただの遺跡なら言説の参加者の大半は年配の人が多いんだけど、人骨1500体は、ミーハーでも興味をそそられるので、現場にはけっこう若い人も多く、すでに三百人余りが言説の開始を待っていた。


 フェンス越しに墓穴と思われる穴が窺えた。


 洗濯機の洗濯槽くらいの穴が百ほど、方形の大きな穴が三つほど窺えるけど、平場なので穴の中までは見えない。


 これまで、二度ほど発掘された古墳の現説に行った。


 古墳と言うのは様々な副葬品があって、葬られている人骨よりも、そっちの方が面白い。


 人骨なんて、素人がパッと見てもよく分からない、男だか女だか若者だかお年寄りだか、そういうことは専門家が何カ月も何年も調べて、素人は、その結果を見て「へー」とか「ホー」とか感心できるもので、現説では、やっぱり副葬品だ。


 勾玉、管玉、銅鏡、土器や埴輪のいろいろ、武器や武具といったものにロマンを感じる。


 もともとが、親の公認の元にお出かけしたいための口実だったから、そういう見かけの面白さに引かれるんだ。


 ところが、三十分後に始まった現説。


「江戸期の集合墓地と思われます。一つ一つの墓穴に葬られているものから、数体、数十体まとまって葬られているものまで様々ですが、副葬品はほとんどありません。茶碗とか土人形とか日用品てきなものが散見される程度で、被葬者は庶民階級の人たちだったと思われます。大坂には『七墓巡り』というのが……」


 スマホで調べた内容を補強するような説明が続く。


 え、これは? え? なんで? なんだ?


 発掘作業をしていた人たちにいくつもの?のマークが立ち上がる。


 見学者にも聞こえたので、みんな、そっちの方にゾロゾロ向かいだした。




 それは、洗濯槽ほどの個人用の墓穴で、座棺で葬られ、座った姿勢でクシャっとなった人骨がきれいに残っている。


 人骨そのものは、他の墓と変わりが無いのだけど、副葬品が膝の間に収まっていて、その副葬品が……。


 なんとスマホなのだ!?


「ちょ……」


「ありえない」


「なんで……」


 様々な驚きやら当惑の声が上がる。わたしは、その人たちの中で一番驚いていたと思う。


「これって、警察呼んだ方が……」


 ということで、急きょ大阪府警のパトカーと鑑識の車がやってくることになった。


 そして、あくる日のニュースで報道された。


―― 人骨は、やはり江戸末期のもので、推定年齢十五六歳の女性、多少の副葬品があったが、現在鑑定中 ――


 副葬品がスマホだったとは書かれていない。ありえないことだもの、発表なんてできないよね。


 でも、わたしは見てしまった。


 あのスマホは、穂乃花が行方不明になった時に持っていたのと同じだ。


『東梅田コミュニティー会館』の角を曲がって、穂乃花が行ってしまったのは、いったいどこだったんだろう……。


 


 


 

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