第3話『さあ……知らんわ 西区』


大阪ガールズコレクション:3


『さあ……知らんわ 西区』  






 さあ……知らんわ




 北島の返事は三秒で終わった。


 三秒のうちの二秒は「さあ」と「知らんわ」の間の「……」や。


 まあ、この二秒が北島の誠意やねんやろけど、なんともそっけない。


 ねえ、ここ、なにが建つのん?


 そう聞いた返事がこれ。




 この返事を聞くまでは北島のことを飛雄馬という、北島には出来すぎの下の名前で呼んだってもええと思てた。


 ちょっと慣れたら『ひゅうくん』でもええんちゃうかとも思てた。


 せやけど、もとの北島君のもひとつ下に落ちて、ただの北島や。




 連休明けぐらいから、地下鉄出たとこで北島といっしょになるようになった。




 うちの学校は地下鉄西長堀で下りる。


 改札出たらエスカレーターと階段で地上へ。それから左に曲がって二回曲がったら学校。


 いっつも八時十分くらいには学校着くようにしてる。


 別に部活とか勉強のためと違う。


 ピーク時間をさけたいだけ。集団でゴチャゴチャやるのは性分やないんです。




 そんな朝の登校に、いつの間にか北島が横に並ぶようになった。


 さっきも言うたけど、連休明けぐらいから。


 北島は同じクラスやから「お早う」ぐらいは言う。


 最初は部活で早いんやと言うてた。


 ああ、そうなんや……と理解してた。


 学校に着いても教室に入ってくるのはショートホームルームが始まる直前やし。




 でも、違てた。




 部活の早朝練習やったら、もっと早い七時台やてノンコが教えてくれた。


 あくる日には、もっと教えてくれた。


「北島君な、あんたに合わせてんねんで」


「え、なんで?」


「なんでて、決まってるやんか!」


 ノンコはバシコーンと肩を叩いた。叩いたことよりも声が大きいんで、教室の何人かが注目する。


 その注目の中に北島がおって、すぐに目線を避けよった。




 あ あーーーーー




 わたしのこと……(⋈◍>◡<◍)。✧♡!


 それからは、毎朝の通学デート!


 いつかは告白されるやろと思いながらも平常心のポーカーフェイス。


 せやけど、純情な奴で「お早う」以外には、ほとんど喋らへん。


 ときどき話題を投げかけてやるんやけど「ああ」とか「ふうん」とかしか返ってこーへん。


 クラスメートとか先生とかの話題出しても、せいぜい「そやな」「わかるわかる」くらい。


 たまに人の悪い噂を言うと「うん……」とあいまいな返事。


 北島君は、飛雄馬は人の悪口にはのってけえへんねんや……ちょっと感激した。




 手相みたげよか?




 なにげに声を掛けた。


 二カ月過ぎても進展がないんで、ちょっと仕掛けた。


 キスなんてとんでもないけど、ちょっとしたスキンシップくらいあってもええんちゃうんかと思たから。


「感情線がクッキリしてるから情熱家……しかし、なかなか気持ちを表せないところもある」


 上品な言い方でくすぐってやったけど「そ、そーか」を繰り返して手を汗ばませただけ。




 そんな日々の中で気が付いた。




 地下鉄から地上に出て、最初に曲がるとこが、ずっと工事中の背の高いフェンス。


 どこにでもある工事中なんで、ずっと意識の外にあったんやけど、思い出した。


 ここにはこども文化センターがあったんや!


 キャパ八百ほどの劇場があって、何回か観に来たことがある。


 大きいお姉ちゃんが演劇部やったんで毎年やってる演劇部がたくさん出る催し物があった。


 お姉ちゃんは勘のええ人で、たくさんある劇の中からおもしろい劇を選んで勧めてくれた。


 四回くらい観に行った。


 そのことが、いま学校の誰にも内緒で放課後に通ってる某プロダクションの研究生に繋がってる。


「学校の周りって、あんまり知らないからさ、いつか教えてもらえると嬉しいかも」


 カマをかけておいた。


「となりの神社ってお稲荷さんだったんよ、知ってた?」


「ああ、伏見稲荷とかの?」


「そそ、赤い鳥居がズラーーって」


「今んとこ、それだけ知ってる」


 ちなみに、お稲荷さんを言ったんはわたし。言うとけばあとが続くと思たから。




 それが、さあ……知らんわ。




 ただ口下手なだけと違て、気ぃのまわらんスカタンやと分かってしもた。


 わたしは電車の時間を変えた。


 ほんなら二日目にはあいつも変えていっしょになる……もう鈍感なだけのストーカーや。


 お腹に空気を入れて振り返る。


「もう、付いてこんとって!」


 


 

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