第4話 大福

「御免、どなたか居らぬか?」


茶屋の敷居をまたぐ桜華、中から声はするが呼びかけても返事は無い

桜華は茶屋の外から声のする方に回り込み再度声を掛ける

茶屋の小窓から内部を除くと紙芝居の様な箱の前に寝転がる老人を見つける

どやら眠っているらしい

それにしても自動で動いている紙芝居を見るや関心をしていた


「あのような物があるとは、世間は広いな」


老人を無理に起こそうとはせずにしばらく茶屋の前の椅子で待つことにした

こんなのんびりと過ごせるのはいつ以来だろうか、絶えず人の目を気にし気を貼っていた空間から解放された心地よい気分をしばらく味わっていた


どのくらいの時が立っただろうか、茶屋の奥で老人が起きて動いている気配を感じた

桜華は再び声を掛ける


「御免、どなたか居らぬか?」

「はいはい、どなたでしょうか?」


今回はきちんと返事があった

老人は桜華の姿を見るや珍しそうに声を掛ける


「おやおや、お侍さんとはなんとも珍しいお方が来られましたな」


仕方が無いのかもしれない、待っている間誰1人としてここを通る者が居ない

よほど辺鄙な山奥なのだろう、そんな場所で腰に刀を差した人物は珍しいと思われても不思議ではない


「そんな恰好で表にいられては叶いませんな、どうぞこちらへ」


桜華は自分の首元から腰に掛けて自分の血で汚れた着物を着ていたことに改めて気が付けさせられた


「申し訳ない、他人が見たらびっくりされるだろうな」


老人は茶屋の奥に案内すると、そこには様々な衣装が掛けられていた


「これはすごいな、見たことのない服がたくさんある」

「どうぞお好きな服をお選びください」


桜華は見慣れない服を試着していく

スカートは動きやすそうだが下がスースーして少し落ち着かない

ズボンは密着しすぎて動きずらい

となるといろいろ組み合わせるのが良いか

桜華は衣装をいろいろと組み合わせてみた


「どうだ老人、この格好は!」

「おやおや、これは・・・たしか絶対領域とか言いましたかな、なかなかお似合いでございますな」

「絶対領域?この衣装にはそういう名前があるのか、うむ、気に入った、なかなか強そうな名前だな」

「私は桜華だ、してご老人はなんと呼ばえばよいのだ」

「大福とお呼びください」

「茶屋を営む人物の名が大福か、名は体を表すというがお主にぴったりの言葉だな」

「ありがとうございます」


「ところで桜華様の腰の物はなかなかの業物とお見受けしましたが」

「おお、大福どのは刀に精通しておられるのかな」

「詳しいとまではいきませんが、ここに来られる方々は一番大切な物を持っておいでになる方が多ございます、必然的に目も肥えて参ります」

「そうか、これは師匠から譲り受けた物だからな」

「さようでございましたか、もしよろしければこちらへどうぞ」


大福は桜華を茶屋に訪れた者が置いていった武器を保管しているところへと案内した


「見たことの無い武器が沢山あるな」

「さようでございますか」

「これは単筒か、こんな形は見たことが無いな」


桜華は拳銃を持ち興味深そうに眺めていた


「桜華様は銃にご興味がおありで?」

「そうだな、これにはいろいろと酷い目にあったからかな、こんなものが広まれば刀という物が意味をなさなくなる、今まで励んできた道はなんだったのだろうか・・・考えさせられるよ・・・」

「さようでございますな、ではこのような物はいかがでしょうか?」

「これは・・・これも刀なのか?」

「はい、この刀は金属を反発させたり引き寄せたりします、銃を相手に戦う刀として誰かが開発されたようです、試しに味わってみますか?」

「面白いではないか」

「では、お怪我の無いようにお願い致します」

「私があなたの様なご老人に後れを取るとは考えたくはないが・・・そこまですごい刀なのか」

「さようで」

「わかった、ではお相手願おう」


桜華と大福は茶屋の裏の広場で向き合った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る