第2話 巨岩の里

「はぁはぁ・・・」


息が荒い


「ここはどこ?私は・・・いったい・・・」


空を見上げると


雨が降っている


地面には男性の遺体らしき姿が


傍には後部座席のドアが開きっぱなしの白く大きな乗用車が1台、この男の所有物だろうか


場所は・・・舗装もされていない、手入れもされていない山道、周辺には草木が覆い茂っている


道の脇の崖下から川の流れる音になぜか恐怖を感じだす


一時も早くこの場から離れたい


後部座席のドアを閉め、運転席に乗り込もうと車の後方から回り込む、車の名前はクラウン


運転席の扉を閉め乗り込んだは良いが座席が大きすぎてアクセルとブレーキに足が辛うじて届く程度だが、冷静な判断ができない私は座席をそのままにしエンジンを掛けた


動かし方はなんとなく分かる、左にあるシフトをDに動かすだけだ


車はゆっくりと動き出しハンドルを操作する


車は下りを前にして停車していためアクセルを踏まなくても徐々にスピードが増していく


下り坂で徐々にスピードを上げていく車をハンドルを右に左に必死に操作していく、ブレーキを踏み込もうとしても、ペダルの重さに踏み込みできず逆に体が背もたれとの空間に押しやられブレーキを踏み込むことができない


車を処分しなければ・・・・


スピードが上がっていく中、車を停車させることよりなぜか隠そうという意識が勝っていた


制御できない速度の車はカーブを曲がり切れず、崖下の川へとダイブする


運が良いことに飛び込んだ先は川の深みであり衝撃が緩和された


沈みゆく車から脱出する


やがて車は完全に水没し、結果的には隠蔽することができた


ゴツゴツした大きな岩に手を掛け、岩に付いた苔で足を滑らせながらもとりあず人里を求め下流を目指し進む


しばらく進むと川の水が大量に溜まっている、目の前の見たことも無いような巨大な岩が行く手を阻んでいた


この巨大な岩によって川の流れは堰き止められダムの様になってたのだ


大きな岩によって行く手は完全に遮られた、迂回するには今来た川を戻るしかない


とりあえずは戻らなくて済むように大きな岩を観察する


川の水の行く先はこの巨大な岩の下を通っているのだろうか、その先がどうなっているのか分からない、仮にそんなところを潜って進む勇気とてもない


遠目から巨大な岩を眺めていると岩の脇に洗濯場の様な平らな岩場があり、その奥には人が通れそうな道があるように見えた


岩の先に人がいるかもしれない、そう思うとなにも考えずに水に飛び込んだ


流れは殆どなく泳げそうな気がした


水に入りゆっくりと水をかき分け進んでいく


やがて足も届かない深い場所へと進む、水中が暗く見えなくなってくる


底が見えない程深い場所へ来ると暗闇の中に取り残されたかのような恐怖が感情を支配していく


恐怖により感覚は敏感となった瞬間、背後から近づいてくる気配を感じた


静かに平泳ぎをしている背後を何気なく見ると自分が立てた波をは明らかに違う巨大な物体がこちらに進んできている波のうねりがはっきりと見えた


なにか巨大な生物が居る


そう思った瞬間、必死に前だけに集中し必死に洗濯場を目指した


間一髪だったのか洗濯場に辿り這い上がり水中を見ると


謎の生物は水上までは上がってこれないのか諦めて向きを変えていく姿が見えた


その大きな黒い影からして5-6mくらいの大きさはあっただろうか、その大きな何者かは水中を何度か行き来する際になんとなく目が合ったようにも思えた


なぜこんな場所にそんな巨大な生き物が居るのか疑問に思わない程、情報が整理できない頭の中は混乱している


思ったとおり巨大な岩の脇には人が通れるほどの道がある、岩の脇を進んでいくと雑草地が見えてくる、人が行き来しているかのような草の生えていない場所が獣道となっていた


獣道を進むと道の突き当りに朽ち果てたような家が石垣の上に建っている


近寄ってみると、石垣の上に立っている平屋の家は相当古いせいかガラスはところどころ透明な色を失っている


石垣の下から汚れたガラスを通して見えるのは赤いシャツのような物が干しているのが分かる程度だ


明らかに人の気配を感じないせいか声を掛ける気も起きない


獣道はその家の石垣に沿って続いておりその先を見ると他にも同じような石垣の上に立つ建物が見えた、たぶんこの場より低い位置に立っているのだろう視線より屋根が下に見えその先には青空が見えていた


獣道を進むとやがて集落の全容が見えてきた


大きな岩の途中から滝のように流れ落ちる水


巨岩の裏側は完全な谷間となっており眼下には同じような石垣の上に立つ家が数件まばらに立ち並ぶ、川の手前には石で作られた道が川沿いに続いており、車が通ってそうな道に見えた、川の向こう側は完全な山だ


獣道も途中から石畳の道へと変わっていた


谷を眺め、家を眺め足を進めると人の気配からなのか少しホッとした気持ちへを移っていった


家の煙突から煙が昇るのが見える、中に人が居るのだろうが、ここまでくると安心感からか誰かに助けを呼ぼうとする気も薄れ余裕も見てきた


このまま家に一旦帰ろう


何軒か家の様子を伺いながら道を歩く、すれ違う人や中にいる人の姿は確認できない、このまま誰にも見つからずに通り過ぎることができた方が無難だと考えていた


道はやがて階段に差し掛かり降りようとした時


下の広場におばあさんらしき人の姿が見えた、その人物と目が合った

誰にも見つからずに通り過ぎようと思っていたのに少し失敗したかなと感じた


しかしそのおばさんらしき人物はこちらを気持ち悪いほど凝視している

なんだか気味が悪いので階段を降りるのをやめ石垣に沿って歩き始めると

おばさんはこちらに視線を逸らすことなく、同じように歩きだした


同じような動きをする人物に気味が悪くなり走り出すと、同じように顔をこちらを向いたままで走り出したのだ


私は全力疾走で走り出した、するとおばさんは4mはあろうかと思われた石垣をジャンプし一気に襲い掛かってきた


その衝撃で私は意識が朦朧となっていたがその顔がハッキリと認識できた


おばさんだと思っていたのは猿だった


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