里くだり
呼霊丸
第1話 里の入口
里降り・・・・
人の身でこの里に一度でも足を踏み入れると二度と戻ることができない・・・
-------
郊外の田舎の家で近隣との距離も遠い1軒の小さな家
夜中に助けを呼んだとしても聞こえることは無い
室内の電気はすべて消え月明かりのみが照らされる
夫婦に子供はいない
周囲に血が飛び散り夫は布団にうつ伏せになりすでに息絶えている
背中の傷が腹部を貫通しているのだろう布団が真っ赤に染まっていく
痛みはすでに感じない、ただ体が痺れたように動かない
必死の思いで夫の手を握る、やがて瞳孔の動きが止まり光が識別できなくなる
「死んだか・・・」
「はい、お亡くなりになられたようです」
「では三毛、案内を頼む」
「はい畏まりました」
死体の傍らに佇み2人と1匹の猫、その内の1人は背丈は100cmにも満たない小さき人、もう1人の少女からはお付き様と呼ばれている、そして猫と言っても2本足で歩き人語を理解し話すことができる、見た目だけの猫、三毛と云う名は少女によって付けられた
お付き様によって命令された三毛は夫婦の遺体に手を掛けると、遺体から白い者(魂)を引き抜いていく、そしてまるでツルンとしたゼリーが滑り落ちるかの如く三毛と一緒にずるりと地の底へと消えていった
「例の2人もすでに里から落ちているだろうし、我々も里に戻るとしようか」
「はい、お付き様」
-----------
誰も居ない真っ暗なトンネルを駆け抜ける2人の男
「はぁ、はぁ、やっぱ田舎は都合がいいな、ここまで誰にも会わずに来れたな」
「はぁ、はぁ、そ、そうですね」
「お前まだそんな物持ってるのかよ。さっさと処分しろよ」
「あ、はい」
男はトンネルを抜けると道路から血の付いた包丁を崖下に投げ捨てた
「おい、こんなところに湧水が出てるな、ここで血を洗い流そうぜ」
そういうと男達は自らの体に付着した血を服とともに洗い流していた
「ふぅ、さっぱりするな・・・」
「あ、あのー」
1人の男が何かに築いたのかもう1人の男の肩を叩く
男達は体を洗うのに必死になっていたが1人の制服姿の少女が呆然と立っていた
「ちぃ、見られたか」
そう発した瞬間、男達は少女に襲い掛かる
少女の胸倉を掴み持ち上げ、持ち上げた腕で壁に押し当て抵抗できないように抑え込んだ
「お前、見たな?」
「な、なにを・・ですか・・・」
「ま、まぁいい、それよりなかなかの上物じゃねぇか、なあ」
「こんなところで君のような少女に会えるなんて・・・」
「なんだそれ?それより俺たちは興奮が収まらねえ、ちょっくら嬢ちゃんのここを貸してくれねぇかな」
胸倉を掴む男が少女のヘソの下あたり人差し指で押す
「ぅ・・・・」
少女は思わずうめき声を漏らす
「ははは、嬢ちゃんまさか感じてるんじゃないだろうな」
「こんな少女に乱暴なことはいけないよ、もっとやさしく触ってあげないと・・・」
「なんだと文句あんのかよ」
「あ、あの・・・これで許してもらえないでしょうか?」
少女はスカートのポケットから何かを取り出し地面に落とした
金属的な鈍い音を立てた何かはトンネルの明かりだけの薄暗い中でもはっきりと視認できた
「お、こ、これは・・・」
男達は少女から思わず手を放した
少女以上の価値を見出したからだ
「これは金か?」
「結構重量ありますよ、本物ならヤクザから借りた金返せますよ」
「おい、お前これ本物なのか?」
「あ、あれ、これはどういうことだ・・・」
2人は金塊は急に重みを増し手にした2人は地面に沈んでいく
手から放そうとしても重力に逆らえないほどの意味の無い抵抗であった
沈みゆく男達を見下し少女の視線に感情はない
男達は突然木々に囲まれた舗装もされていない茶色い地面に降り立った
空は曇っており今にも雨が降りそうなくらいに薄暗い
「っ痛ってぇな、おい、ここはどこだ?」
「たしか少女が居て、金を手にしたまでは覚えているのですが・・・」
「そんな事は分かってるよ」
男達の手には金が残っていた
「そうだ、携帯は・・・電波は届くが・・・チィ、通じないな・・・」
「おい、そっちはどうだ?」
「受信はするがどうも送信ができないみたいだね」
「ったくしょうがねぇな、一体どうなってやがるんだまったく」
「もしかするとあの世とか?」
「はぁ?、おいそれより雨が降ってきやがったぞ」
「あ、あそこにお店らしき建物がありますよ」
道の先に古臭い茶屋の様な建物が立っていた
男たちはとりあえず雨を凌ぐために茶屋まで走り着いた
茶屋の扉は開けっ放しで、中に入るとテレビでも付けているかのような音が聞こえてきた、誰も居ないように思えたボロ茶屋だが中で人の気配がする
「だれかいませんかー?」
音のする方に向かって声を歩きながら進むと衝立の裏の小さな畳の部屋でテレビを見ながら横になっている年老いた男性の姿が確認できた
「おやおやお客人でしたか、人なんぞしばらく来ないのでうたた寝しておりました、あら、外は雨ですな、さぞかしお濡れになりましたでしょうね」
「そんなことより俺たち街に戻りたいんだけど、街はどっち?、それと車とかは無いの?」
男は車があればこの家から奪おうと思い粗暴に質問を行う
「申し訳ございません、あいにくここは山の中となっておりまして、人の居る場所までは徒歩で下る事になります」
「え?、なんだよそれ、歩きかよ、ダルイな」
「こんな山奥だししかたないかも?」
「ったくしょうがないな、ところでじいさん金持ってねえか?」
周囲に人が居ないと分かれば奪おうとする、その光景にもう1人の男は静観している
共犯者ではあるがこの男についてはあまり知らない
裏の世界の人間に金を借りた男の末路だ
「お、お金でございますか?御覧の通り山奥で1人で生きておりますので、お金は・・・、日々の生活はあちらの畑や山で採れたもので飢えを忍んでおります」
「ここのお菓子10年以上前に賞味期限が切れてますね」
「なんだよ、価値なしかよ、くだらねぇな」
「おや?あなた方が手にしているのは?」
「ん?これか金だと思うのだが?」
「はい、それでしたらここから下ったところの川で採れると聞いた事がございます」
「お、なんだよ、この辺りは金でも採れるのか?」
「はい、昔そのような事を聞いた覚えがございます、今やそれを知る人物も居ないのでおそらく手付かずかと・・・」
「おい聞いたか?こんな辛気臭いところ後にして行こうぜ」
「う、うん」
「おい、どっちだ?」
「なにがですか?」
「川の方だよ」
「ああ、そちらの扉から先に進むと下る階段が見えますので後は1本道でございます」
「この扉だな?」
「はい」
「おい、いくぞ」
「じいさん命拾いしたな」
2人は扉を開け転げるように階段を駆け下りていった
「そうでしたか、2人はやはりその扉が見えていたのですね、・・・とすると」
すると茶屋の主人は背後から声を掛けられる
「よう、じいさん、2人を連れてきたぞ」
「おやおや、これは三毛様、雨も上がったようですな」
「雨?そういや地面が濡れていたな、それより2人に湯を頼む、里に入る前に身支度をさせないとな」
「はい、畏まりました、どうぞこちらに」
先ほどの男達に殺された夫婦の姿は血にまみれていた
しばらくすると真っ白な死装束の様な服を身につけた2人が現れる
「あのー、私たちはこれからどうなるのでしょうか?」
「なーに、これからある里に行ってお付き様の世話をしてもらうだけです、まじめにお仕事をすれば上へ上へ登れますよ」
「お付き様・・・ですか・・・」
「はい、おや、お迎えの方が御出でのようです、あのお方に付いて行けば大丈夫ですよ、詳しい説明もしていただけます」
「は、はぁ」
夫婦は顔を見合わせる
「ご安心ください、2人はずっと一緒に暮らせますよ」
「は、はい、その言葉を聞いて少し安心しました」
三毛とじいが見送る中、途中こちらにお辞儀をしながら夫婦は里に向かい歩いていった
「ところで佐治よ、先に来た2人はどうであった?」
「私の見立てでは人間としては0点でしょうな、しかしその欲深い魂は彼らが手にしていた物より少し大きくなりそうですな」
「なるほど、欲深い者からすればより魅力的な物になりそうだな」
「はい」
「うむ、私はお付き様の元に戻るとしよう」
「さて私は2人が落としていった携帯でも触ってみるとしましょうか、しばらく2人に成りすますのも暇つぶしになりそうですな」
「相変わらずだな」
そう言い残し三毛はその場を後にした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます