第31話 銀杏と紅葉
季節は晩秋で銀杏並木から黄色い落葉が落ちる。チラチラと舞う銀杏の葉が印象的であった。
「何、センチメンタルになっているの?」
さおりんはもぐもぐと肉まんを食べながらわたしに声を掛ける。秋が終わるのだ、この無神経なさおりんは置いておいて。わたしは携帯を取り出して、色づいた銀杏を写真に納める。そう言えば、さおりんの横顔の写真がまだでだった。うっかり消してしまって数日経ったな。わたしはさおりんのスキをつき肉まんを頬張る顔を写真に遺す。この写真が一番さおりんらしいなと思うのであった。
「もー!もっと、可愛い写真にしてよ」
ブウブウ言うさおりんは小動物の様に可愛い。
「まて、まて、これは愛情表現だよ、日常のさおりんが欲しかったのだよ」
言い訳くさいが日常のさおりんが欲しかったのは本当だ。再び、銀杏に目をやる。綺麗な黄色が辺りを包んでいた。わたしは一枚、銀杏の葉を拾う。さおりんは肉まんを食べ終わっていた。
銀杏の葉をさおりんに手渡すと……。さおりんは大切そうにしまう。単純なやり取りだが、わたし達に言葉は要らなかった。
教室に戻るとさおりんはわたしから貰った銀杏の葉を眺めていた。そこに角田先生が入ってくる。
「この中にわたしを失望させた者がいる」
何やら、さおりんを睨んている。どうやら、わたしのあげた銀杏を問題視しているようだ。さおりんは急いで銀杏の葉をペンケースにしまう。
「本人がいいなら、これ以上は言わない」
カクカクの角田先生には銀杏の葉などゴミでしかないのかもしれない。しかし、わたしとさおりんにとってみれば宝物だ。それは平凡な日常の証拠となる宝物だ。その後、午後からの授業を角田先生は始める。わたしは急いで数学の教科書を広げるのであった。しかし、授業の内容は入ってこない。窓の外を見て時間を潰す。いつの間にか数学の授業が終わっていた。さおりんを見ると気持ち大人びている。人ってこうやって成長するのかもしれない。わたしは目をつぶりさおりんの気配を感じる。それはさおりんと生きている証であった。
ふと空を見ると紅葉が色付いていた。銀杏と同じ様に季節を告げる色合いだ。さおりんが背を伸ばして一枚手に取る。
「また、角田先生に怒られるぞ」
……。
さおりんは渋々、紅葉から手を離す。 イヤ、違う。ここはわたしが手に入れるべきだ。わたしはさおりんの手放した紅葉を拾う。
「今度、わたしが角田先生に怒られよう」
何より、授業中はしまっておけばいい。
「ホント、バカ正直でゴメン」
わたしの謝意にさおりんはクスリと笑う。最近、さおりんの様子の変化を感じていた。しっかり、抱き締めていないと消えてしまいそうであった。それから、紅葉をペンケースにしまうとさおりんが甘てくる。それは、わたしの腕をギューと組み、完全にバカップルであった。
「発見であります」
陽美々とクドーさんに見つかった。陽美々がわたしに近づくと反対の腕を組んでくる。こんな事をしているから、カクカクの角田先生に目を付けられるのだ。
「風紀が乱れています」
クドーさんが角田先生の真似をする。笑う、クドーさんであったが本当に見つかったらヤバイな。わたしはさおりんと陽美々を前に置き二人の頭をナデナデする。満足そうな二人を見ると、クドーさんでも大丈夫かなと思う。試しにクドーさんに二人をナデナデしてと頼む。慣れた手付きて二人をナデナデすると……。
「キューン」
さおりんが甘い声をだす。クドーさんも幸せそうであった。
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