第29話 文芸部
わたしとさおりんは部室棟の文芸部の中にいた。陽美々が文芸部の部員らしい。確か陽美々の容姿は文学少女であった。本棚に並ぶのは文豪かと思いきや青い鳥文庫である。
青い鳥文庫と言えば小学生のバイブルで、ラフな表紙に漢字には全てルビが青い鳥文庫の定番だ。陽美々は文学少女でも難しい文章はダメらしい。
しかし、何故、高校の部室に自分の趣味が反映されるのかは部長がクドーさんだからだ。要は陽美々とクドーさん以外は活動が無く幽霊部員が数人いる部活なのである。
「ぽ、ゆるりとしていい」
陽美々は自分の席らしい場所にあるパイプ椅子に座る。何故、文芸部の部室に居るかと言うと。一階の中庭にあるベンチにさおりんと座っていると。担任の角田先生がカクカクと説教を始めたので逃げて来たのである。
そう、角田先生は男女交際に関して極めて保守的なのである。そこでフラフラしていた陽美々に良き隠れ場を相談すると文芸部の部室となったのである。
「しかし、部室でまったりするのは久しぶりだな」
クドーさんがしみじみと語る。なるほど、部長のクドーさんも久しぶりとか、かなり終わっている部活だ。
「それでも、昔はリレー小説など作っていた、伝統ある部活なのだよ」
クドーさんが力説するが今は終わっている部活だ。
「お題小説でも書くか?」
クドーさんが無理なことを言い出す。
「久しぶりに書くか」
陽美々も乗る気だ、一般人にお題小説など無理ゲーである。
「お題は『演歌的の恋』でどうだ?」
クドーさんは一方的にお題を決める。陽美々は携帯を取り出して何やら文章を書き始める。さおりんは目が点になっている。この場の空気に呑まれたらしい。仕方ない、わたしは青い鳥文庫でも読むか。本棚から適当に青い鳥文庫を取り出して読み始める。これが今どきの小学生の定番か、大変だなと関心するのであった。
「書けたぞ」
陽美々が携帯で書いたお題小説を見せる。お題は確か『演歌的の恋』であった。
内容は冬の津軽海峡である。うむ、演歌の定番ではあるが、青函トンネルがあるしな。更に説明する陽美々は得意げであった。
「津軽海峡で心中する内容だよ」
フィクションだしな『演歌的の恋』なら仕方ないか。うん?さおりんがようやく離脱した精神が戻って来たらしい。
「は、は、は、この部室は文芸部だもんね」
やはり、少し壊れている。今、必要なのかは何だ?などとシリアスになってもさおりんのことである。クドーさんもそれを察知したのか、奥の方からお菓子を取り出すとさおりんは静かに食べ始める。
「えへへ、甘い物はやめられないね」
すっかり、いつものもさおりんである。
「それで、クドーさんの書いたお題小説はどうなのだ?」
「冬の屋台での一コマです」
ほー流石クドーさん、少し読んだが面白い。しかし、隣からガツガツなる擬音が聞こえてくる。
「このチョコレートバームクーヘン美味しい」
さおりんにはお題小説など興味が無いらしい。確かにさおりんに『演歌的の恋』など関係ないからな。
そんな事を考えながら、ふと外を見ると秋が深まっていた。わたしは冬の近づく窓からの景色を眺める事にした。部室にある小さな窓を開けて景色を眺める。
「ぽ、絵になるな」
何やら陽美々がわたしに見とれている。ふ~う、告白でもされそうな雰囲気だ。
陽美々の見た目は文学少女だし、芸術肌の人種でもおかしくはない。クドーさんが更になにかを書き始める。わたしがなにかを書いているか聞くと。
「ふ、秘密だ」
ついてないや、クドーさんに隠し事をされた。わたしは頭をポリポリするのであった。
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