第25話 ハロウィンにて

 季節はハロウィンである。元々は外国の収穫祭で日本には無かった習慣である。大体、黄色いカボチャなど日本にないのに、それでいて受け入れる日本人のハングリーな面を感じる。


と……。


 わたしにはハロウィンなど関係ないやと教室の窓から秋の深まる外を眺める。


「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ」


 わたしが外を眺めていると、さおりんが話かけてくる。ハロウィンか……さおりんは子供だな、でも、信仰の自由は保障されないとな。はて、ハロウィンは宗教と関係あるのであろうか?ま、日本人には関係ない。そう、目の前のさおりんにも関係ないのか。


「がーお、狼男だぞ」


 さおりんの手の中にあるのは狼男のぬいぐるみである。


「仮装は大変そうだから、ぬいぐるみの狼男だぞ」

「はい、はい、お菓子ですね、飴ちゃんをあげますね」


 さいわいな事に常備している飴ちゃんがあった。その飴ちゃんをさおりんに手渡すのである。


「がーお、ありがとう」


 飴ちゃんを貰い、お礼を言うさおりんは上機嫌である。本当はハロウィンかぶれのさおりんを無視をしたい気分であったが、飴ちゃんで満足するなら安いものだ。おっと、角田先生が入ってくる。これはショーホームルームの始まる時間である。


「皆さん、ハッピーハロウィン!今年もこの季節がやってきた。今日はマイワイフとパーティーである……」

「は?」


 あのカクカクの角田先生がハロウィンパーティーとな。確かにいつもマイワイフとか言っているが、そこでパーティーなんだ。


「そこ!背筋が丸い、気を付けたまえ」


 注意された生徒はビンと背筋を伸ばす。やはり、口うるさい、カクカクの角田先生である。


 むむむ……。悪寒が走る。


 ショーホームルームと授業の合間にメッセージが届く。


 陽美々からだ。


『今日の放課後、調理実習室でハロウィンパーティーをする。是非、参加したまえ』


 これはどうしたものか……?ま、祭りは楽しんだ方が勝ちだ。陽美々に飴ちゃんを与えれば問題ない。


 ここは参加するか。放課後、わたしは昇降口の斜め前にある調理実習室にいた。陽美々にクドーさんは制服姿で仮装はしないらしい。


 そして、コンロで炊かれるのはキムチ鍋である。もはや、ハロウィンの痕跡すらない。クドーさんが持ち込んだお菓子がほんの少しだけハロウィンを感じさせる。


 元々が消費行動をあおる為に輸入された文化だ。キムチ鍋とコラボしてもおかしくはない。


「おら、白菜が煮えたぞ」


 陽美々が鍋奉行をしている。それで悪寒が走ったのか。その存在感で時に鍋奉行は嫌われる。


 鍋の自由を取り戻せ。正に鍋デモクラシーである。結果、陽美々は口を封じられ、キムチ鍋は自由に食べることになった。


「ところで、よく、調理実習室の使用許可がおりたな」


わたしがクドーさんに聞くと。


「学年主任が夜な夜なこの調理実習室で宴会をしている事を掴んで教頭先生にばらすぞと質問したら、許可が下りた」


 それは先生同士の微妙な人間関係を利用した質問ではなく脅迫だろ。ギャルのクドーさん……やはり、恐ろしい人であったか。


 さて、肉が煮えたか、わたしはガツガツと食べるのであった。

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