第22話 秋の海へ 後編

すると、突然、『くぅうう』と陽美々のお腹が鳴る。


「お昼にしよう」


 女子がお腹を鳴らせて恥しくないのかと疑問に思うが、陽美々は物欲しげにこちらを見ている。


 確かにお腹が空いた。しかし、近くにコンビニすらない。すると、さおりんが持っていた、大きな荷物を開く。


「サンドイッチだよ、皆で食べよう」


 流石、さおりん、料理が得意なのは本当なのか。


「美味しいよ、さおりんは凄いな」


 皆はガツガツと食べてサンドイッチは直ぐに無くなる。うむ、お腹はいっぱいになった。


 空を見上げると、まだまだ厳しい日差しに、辺りは潮の香りに波の音……。


 海に来てよかった。


「ぽ、ぽ、ぽ、さおりんは仲間と認識した」


 陽美々は満足そうに言う。しかし、今まで何だと思っていたのだ?小一時間、問いかけたいが我慢しよう。


 ならばと。


「陽美々はクドーさんのことは何だと思っているのだ?」

「親友だ」


 百合的な関係があれば面白いかと思ったがやはり違うらしい。そんな事を考えながらクドーさんを見ると。赤いビキニが大きな胸を包んでいる。クドーさんの水着姿はセクターだなと思う。


うん?


 少し、見入り過ぎたらしく。


「何を見ているのだ?」 


 と、さおりんがわたしに問うてくる。


「ま、ま、さおりんに無いモノだ」


 少し、正直過ぎたかな。さおりんの残念な胸に比べてクドーさんはボン、キュン、ボンである


 しかし、女子三人は水着姿でも、海に近づくことはなく、ババ抜きを始める。わたしも混ぜてもらったが、負けてばかりでいる。そう、ババが来ると二度と誰も引いてくれないのだ。


「さおりん、何故、わたしは負けるのだ?」


 単純な質問をすると。さおりんは困った顔をするが教えてくれた。


「ババを引くと鼻をかく。そして、ババのカードが一枚だけ上に出ている」


 それは勝てないわな、我ながら素直な性格だと痛感する。誤魔化す訳ではないが、秋の浜辺で水着姿の女子三人がババ抜きをする姿はシュールである。つまりはアウトドア的なことをするべきだ。


 うん?


 不意に腕時計を見るとそれなりの時間だ。ここはそろそろ帰ろうと提案する。


「そうだな、海は堪能できた」


 クドーさんはそう言うと服を着始める。


「ぽ、ぽ、ぽ……」

「あい、わかった」


 さおりんと陽美々も服を着る。わたしは帰りのバスの時刻表を携帯で調べる。この程度の待ち時間なら今から出発しても大丈夫だ。帰り道、日差しが強いので秋の海も良かろうと思うのであった。


     ***


 帰りのバスの中の事である。ギャルのクドーさんが携帯でパズルゲームをしている。色を合わせると消える単純なゲームだ。


 陽美々は本を読んでいる、見た目は文学少女であるが、中身も文学少女であったのか。


 ここはわたしも文庫本でも読むか。うん?携帯にメッセージが届いたぞ。


『ハロー、元気?』


 さおりんからである。わたしはさおりんの方を見ると携帯を片手に手を振っている。

これは知っているぞ。


 バカップルが目の前でメッセージ交換をするやつだ。大体、何処で覚えたのだ、バカップルに限らず、普通はするのか?クドーさんが異変に気づきこちらを見ている。


「どうした、クドーさん?」

「それはわたしのセリフだ。明らかに挙動不審だ」


 くっ、ババ抜きの件もある。わたしは極めて分かりやすいらしい。


「えへへへ、わたしとラブラブメッセージ交換中なのだよ」


……。


 クドーさんがジト目でわたしを見ている。


「クドーさんは好きな人いないのか?」


 さおりんのバカップル発言に機嫌の悪いクドーさんに対して半分ヤケだが、普通にモテるだろと問いかける。


「陽美々に出合うまでは、わたしは孤立していた。その原因はわたしの両親だ、お互い仕事が一番らしく、家族で話す機会など無かった。独りでいる事が正義で愛情など知らなかった。だから、告白されても白けた感情しか得られない」


 軽く、ネグレクトの様な事を言うな……。


「ふ、陽美々以外にこんな事を言うなんてな」


 クドーさんは一瞬、寂しそうな顔をして携帯ゲームに戻る。さて、問題はさおりんである。


『クドーさんとのお話は終わった?』


 やはり、目の前にいるのにメッセージが届く。はあー。疲れる。早く地元のバス停に着かないかな……。


    ***


『独りににしないで……』


 また、夢落ちか?少女の声が聞こえた。それは寂しい呟きであった。


 朝の日差しが窓から差し込んでいた。わたしは携帯を確認する。アラームまで十分前か……。


 更に携帯を見てみるとクドーさんからメッセージ来ていた。内容は昨日の海に連れて行ってくれて、ありがとうと言う。お礼であった。


 わたしはバスの中でクドーさんの闇を聞いた事を思い出していた。両親の仕事一番とのネグレクトである。このメッセージも孤独の中で書いたのであろうか?


 うん?添付画像もついている。浜辺でのわたしとさおりんに陽美々の写真だ。いつの間に撮ったのであろう。わたしはクドーさんのお礼のメッセージを読み返す。


 今、必要なのは何だ?


 クドーさんは心を開いてくれた。わたしはクドーさんにメッセージを送る事にした。


『陽美々だけじゃない、わたしがいる。独りでいるなら、わたしがいる』


 ああああ、送ってしまった。わたしはクドーさんの孤独を癒せると言うのか?クドーさんの闇に対してわたしのできる事の少なさに自己嫌悪が始まる。


 そして、返事は直ぐに来た。


『ありがとう。お前、ホントに素直だな、陽美々が惚れる訳だ。この孤独は一人じゃない』


『この孤独は一人じゃない』か……クドーさんらしい。


 わたしはもう一度、メッセージを送る事にした。内容は昨日の海の話にした。


 そう、クドーさんは、もう、独りではないのだから。

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