第21話 秋の海へ 前編
わたしは夢の中にいた。体は軽く水の中に浮いている様な夢だ。目が覚めると不思議な気分である。わたしが何者で起きた場所すら分からない。
しかし、左足の違和感で全てを思い出す。
わたしは……。
朝起きたのだ、とりあえず、携帯をチェックせねば。さおりんからメッセージが来ている。
『海に行かない?』
唐突なメッセージだな。今日の天気は秋晴れだ。確かに海に行くにはいい天気だ。わたしは快諾のメッセージを送る。義足で海か……。海水浴などできるはずもなく。この時期だから行けるな。
それから……。
待ち合わせの場所は神社横の郵便局である。その時間の十五分前、さおりんの来る時間だ。
「やっぽー」
ホントに来た。さおりんは真面目だな。ま、わたしも二十分前には来ているのだが。
「発見、好意、好意」
陽美々とクドーさんである。何故、ここに居るのだ?
「わたしの家の周りをウロウロしていたから連れてきた」
は?どういうことだ?
「イヤー、ライバルの偵察の為にさおりんの家を探していたら迷ってね」
ギャルのクドーさんが頭をポリポリしながら説明する。ストーカーだ、確実にストーカーだ。
「大丈夫よ、わたしの自宅の周辺は入り組んでいて案内無しではたどり着けないから」
そう言う問題ではない、ストーカー行為を許していいのかと言うことだ。
「ケチな心は男気を下げるぞ」
ギャルのクドーさんは開き直った。そして、陽美々は頬を赤くしてこちらを見ている。まてまて、危険がないで済むのか。
「固いことは言うな、わたし達は一回帰って、水着を着てきたぞ」
「ぽ、セクシー水着」
「……」
わたしがバカンス気分の二人に呆れていると。
「はい、はい、皆で海に行きましょうね」
さおりんがその場を治めてバス停に向かう事になった。結局、四人でバスに乗り、海を目指す。先ず、たどり着いたのは駅のバスターミナルである。ここで乗り換えてと。そさから、更にバスに揺られている。
「ぽ、潮の香りがする」
陽美々が呟くがその様な香りはしない。しかし、松林を抜けると一面の青い海である。早速、バス停で降りるとさおりんと陽美々は浜辺に走って行く。
置いてきぼりかよ。クドーさんが一緒でよかった。
「陽美々の面倒をみるのは大変だろう」
わたしの問いにクドーさんは首を振る。それは笑顔であった。決して大変なのではなく。クドーさんは陽美々を理解して、面倒をみるのに生きがいを感じている様子だ。
「お前こそ、さおりんは大変だろう?」
「いやいや、癒されているのはこっちだ。その気持ちは分かるだろう?」
「まあな」
ギャルのクドーさんが居れば、陽美々が暴走してストーカー行為をエスカレートさせないな。
少しだが、クドーさんと話せて良かった。
「二人とも早く」
浜辺の方からさおりんの声が聞こえる。今日は海のエピソードの始まりである。
それから、浜辺に着くと女子三人は服を脱ぎ始める。さおりんはフリルワンピース、クドーさんは赤いビキニ、陽美々は定番のスクール水着。
大体の予想は当たった。ここでわたしもと言いたいが義足生活に水着は必要なく。そのままの姿であった。
しかし、泳ぐには少し気温が低いので、三人は強い日差しの残る浜辺で寝転ぶ。
「泳げないのが残念だよ」
さおりんは湿気た顔で呟く。確かに、このまま、秋になるのが寂しく感じられた。
「好意の対象、セクシー水着はいかが?」
だから、スクール水着だろ。見た目は地味キャラなのでピッタリとも言えるが、文学少女にスクール水着だと違和感がないのは、全国の文学少女に失礼なのかもしれない。
結局、陽美々の総合評価はスクール水着しか思い浮かばないのであった。それで、ギャルのクドーさんも予想通りのビキニ、最新のファッションを常に気にしているし、髪の手入れもちゃんとおこなっている。だから、赤が似合うのも本人が分っている証拠だ。
最後に、さおりんは……。
ま、さおりんらしいとしか言えない。
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