第20話 ジグソーパズルの憂鬱

 それから……。


 わたしはジグソーパズルに苦戦していた。勿論、絵柄は雪の王国である。基本的にパズルは苦手なのであるが、子供向けと甘く見ていた。


 うん?さおりんからのメッセージである。


『ジグソーパズルが完成したよ』


 確か、さおりんのジグソーパズルはわたしのと比べて一回り大きいはずだ。屈辱的だな。たかがジグソーパズルでここまで敗北感を感じるのか。ダメだ、このジグソーパズルなるモノはわたしの性格に合わない。


『さおりん、わたしのジグソーパズルは欲しい?』

『タダで?嬉しいよ。完成したら見せてあげるね』


 こうして、わたしのジグソーパズルはさおりんの元に行ったのである。


 翌日の夜。


 さおりんからメッセージが届く。内容はジグソーパズルが完成したとのこと。あー憂鬱だ、さおりんに頭が上がらない現実に押しつぶされそうである。メッセージの添付画像を見ると。雪の王国の仲間たちが嬉しそうにしている。


 あまりの劣等感にわたしはジグソーパズルをポチっていた。リベンジだ、それからは努力、体力、運に任せてジグソーパズルを組み立てる。


 それから、三日が過ぎていた。


 最後の一ピースを埋め込んだ瞬間である。歓喜のあまりに涙が出る。不意に我に戻るとこの時間は必要だったのであろうか?イヤ、さおりんへの依存から一歩抜け出す為には必要な事がらだ。


 そこで、早速、さおりんに添付画像を送る。


『へー』


 感想はそれだけなのかよ。確かにさおりんからしてみれば普通の事かもしれないが。わたしにとっては快挙なのだ。


 例えさおりんの評価が低くても、わたしの人生には大切な一ページだ。ここは額縁を買って飾ろう。


 自室に雪の王国のジグソーパズルが飾られると黒猫のリーダーが見ている。流石、我が愛猫、わたしの気持ちが分かるのか。


「にゃー」


 ただ、お腹が空いただけなのか?


「にゃーん」


 試しにエサを与えてみるとガツガツ食べ始める。気高き黒猫のリーダーは媚びる真似はしないらしい。リーダーはエサを食べ終わるとお散歩に出かけるのであった。


 さて、勉強でもするか。


 あれ?いつの間にかさおりんのメッセージが届いている。

『ジグソーパズルを一緒に作るイベントが欲しいな』


 さおりん……やはり、さおりんは愛すべき存在だ。


 土曜日、


 予てよりのジグソーパズルを一緒に作る事になった。場所は図書館である。今回はさおりんがジグソーパズルを用意してくれる。


 絵柄はゴッホのヒマワリであった。ジグソーパズルの箱の蓋を開けるとかなりの量である。


「ところで完成したらどうやって持って帰るのだ」


 ふとした疑問をさおりんにぶつけると……。


「知らん、わたしがそんなに賢く見えるか?」


 開き直った、仕方がない、完成したら、解体して箱に戻そう。


「バカでゴメン……」

「さおりんは悪くない、一緒にいるだけで満足だ。とにかく、組み立て開始だ」


 さおりんは頷いて手早く作業を行う。は、速い、この攻撃力は勇者のパーティーに入れるぞ。まさに、映画で活躍するの〇太くんの様だ。


 数時間後、二人で組み立てたかいがあって。ゴッホのヒマワリは完成した。それと言うのもさおりんの隠されたチートスキルのおかげである。


「どうせ、解体するなら、携帯に写真に遺そうよ」


 さおりんの提案にしては気が利いている。わたしは頷くと携帯を取り出す。


 カシャ、カシャ……。


 図書館の中でこの音はかなり目立つ。ただでさえ、ジグソーパズルを作るなる荒業をしていたのだ。


 しかし、もう少しハッピーなアクシデントが有っても良かった。例えば、同じピースを持とうとして手が触れる。狭い作業で肩が触れ合う。わたしが間違えて押し込むのを優しい言葉で制止する。


 などと、妄想が広がっていると。さおりんがジグソーパズルをバラバラにする。


 あぁぁぁ……これはとても寂しい……わたしだけなら五日はかかる作業を一瞬で壊すのである。


 うん?作った物を壊すなかと周囲の視線が増している。もっと人気の少ない場所を探すべきであった。そんな事を考えているとジグソーパズルは箱の中に納まり。さおりんがバックの中にしまう。


「ジグソーパズルのイベント以外に地味だったわね」


 さおりんの言葉に、わたしはさおりんのチートスキルが見られただけでも満足であった。


 しかし、さおりんは落ち込んでいる様子であった。ここで必要なのは何だ?わたしが小首を傾げていると。さおりんがわたしの頬にキスをする。


「えへへへ、大丈夫、誰も見ていなかったよ」


 わたしは言葉に詰まり、オドオドしていると。


「蟹、食べたいなー」


 何故、蟹なのだ?この言葉だけで小一時間は長考できる。


「蟹を一緒に食べたら、もっと、素直になれる気がしたの」


 わたしはそんなさおりんが大好きであった。

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