第19話 雨のち晴れ

 秋雨の季節である。わたしはシャーペンを片手に空き教室で勉強をしている。しかし、ジメジメとうっとうしい。頭も痛く、低テンション極まりない。


「……すーすー」


 さおりんは隣の席で寝ている。理由を聞くと、昨夜ゲームをし過ぎたとのこと。

わたしも寝たい気分であるがここで頑張らねば。さおりんの寝顔を見るのはショッピングモールの帰り以来であった。近づき様子をうかがっていると。


『ダメ、わたしには大切な人がいるの!!!』


 ひぃー、なんだ、寝言か……。さおりんは突然叫ぶのであった。しかし、意味深な寝言だ。今日の空模様の様にわたしは捨てられるのであろうか?女心と秋の空などと言うしな。心配な目線でさおりんを見ていると。おや?目を覚ます。


「おはよう、さおりん」

「なんだ、夢か……」


 夢を見ていたのか、それで寝言を絶叫したらしい。


 ここは恥ずかしい話だが夢の内容を聞こう。


「さおりんはどんな夢を見ていたのだ?」

「えーと、えーと、わたしの好物はメロンパンなのにカレーパンからお誘いがあったの。メロンパンの甘い口当たりはわたしだけのモノなのに、カレーパンの奴め、自分の方が美味しいと言うのよ」


 どんな夢だ、小一時間尋問したい気分だ。


「えへへへ、メロンパンを食べたいな」


 トロンとした目でわたしに言われても困る、学校を抜け出してコンビニに行けばいいだろう。


「えーメロンパンが食べられないなら、また、寝る」


 そう言うとまた丸くなるさおりんであった。さて、問題は解決した。勉強の続きをしよう。


「……すー、すー」


 えーい!気が散る。さおりんの天使の様な寝顔は愛しくなり、近くで見つめたい気分だ。しかも、あいにくの雨で頭が痛い、ここは一緒に寝よう。わたしは勉強道具を片付けて机に向かい目を閉じる。


「……すー、すー」


 静かな雨の音にさおりんの寝息だけが聞こえる。無理だ、寝る事も許されないのか?わたしはコーヒーのペットボトルを取り出す。最近はコーヒーの持ち運びが楽でいい。


 一口、コーヒーを飲むと。眠さが増す。疲れ切った体にはコーヒーでは眠くなるらしい。


「おい、お前たち、遅くなるなよ」


 教室の入口から担任の角田先生が声をかけてくる。そんな時間か……わたしはキッチリと角田先生に挨拶をして、さおりんを起こす。


「もう、食べられないよ……」


 しかし、お決まりの寝言だな。さおりんはお決まりの存在なのか?角田先生が去っていくと。さおりんは目を覚ます。


「さおりん、時間だ、帰ろう」

「はい……」


 少し寂しげなさおりんが印象的であった。


    ***


 雨のち晴れの天気に少し庭に出てみることにした。庭を進むとコスモスの花が咲いていた。


 わたしは早速、携帯を取り出して写真におさめる。そうだ、さおりんに添付画像でコスモスの花を送ってみた。風が強いな、しかも、秋だと言うのに日差しが強い。


『花を育てるのはスローライフってやつだよね』


 スローライフか……ただの変わり者とも言える。そんなわたしの大切な人がさおりんだ。その後もメッセージ交換をしていると。


『ねえ、教えて、新しいジグソーパズルの買うかだよ』


 はい?唐突であるが詳しく話を聞くと携帯ゲームと天秤にかけているらしい。困ったな、趣味がジグソーパズルと言うのも関心されるだろうが、今時は携帯ケームの一つもするだろう。


『さおりん、課題を出そう、ジグソーパズルを買うか決めるミッションだ』


 要は自分で決めろとの事である。


『えー決められないよ。大体、名前を出したら、あい○ょんですら微妙なのに、有名な作品の名前なんて著作権が問題になるよ』

『ありがたい、意見だが、大人の事情は心配しなくてもいぞ』

そう、深く考えたら負けだ。話しを戻すとジグソーパズルだ。

『これがほしいの』


 添付画像はディズニーである。一番、著作権にうるさい所だ。


 えーい……。


『わたしが買ってあげるから、独りで隠れて作るのだぞ』


 その後、わたしは通販サイトでジグソーパズルを探していた。ディズニー、ディズニーと……。しかし、ここで作品名やキャラクターの名前を出したら不味い。えーと、さおりは高校生なので、雪の王国のジグソーパズルでいいや。


注文確定と……。


 そうだ、これを機会にわたしもジグソーパズルをしてみよう。届くのが楽しみだな。


 さて、黒猫のリーダーにエサをあげなくては。


「リーダー、リーダー……」


 わたしはリーダーの名前を呼ぶ。


「にゃー」


 リーダーは何処からか現れて足にすり寄ってくる。ここはご飯の前にリーダーの頭をナデナデしてあげることにした。


 その後、カリカリのエサをあげる。これもスローライフの内に入るのであろうか?

わたしはさおりんと出会ってから、確実に変わった。過去を調べるのも楽しいかもしれない、少し携帯に残っている写真を整理することにした。


 やはり、リーダーの写真が多いな。


 あれ?さおりんの横顔の写真が一枚だけあるな。さおりんの横顔は艶やかな黒髪と凛とした表情であった。確かに美人だ。これで実際に会うと全然違うから不思議だ。


 携帯の写真の整理が終わると。わたしはベッドに横になる。天井を見上げていると携帯が鳴る。


 さおりんからだ。


『コスモスの花言葉は調べたか?』


 携帯があれば花言葉など簡単に調べられる。


『スローライフに携帯で調べた花言葉などいらない』

『いいな、わたしもスローライフをしたい』


 ジグソーパズルが趣味なら十分スローライフだと思うが、口にはしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る