第17話 ストーカーと本命

 翌日の日曜日。


 朝、携帯に起こされて不機嫌でいる。そう、陽美々からのメッセージである。


『おはよう、ご機嫌いかが?』


 だから、不機嫌である。しかも、朝から暑い。わたしは部屋にある扇風機を回す。


『反応が薄いわね、ここはセクシーなわたしの太ももを……』


 アホか、わたしは全力で否定する。しかし、添付画像としてミニスカートに太ももを自撮りしたモノが送られてくる。


 陽美々ってこんなキャラだっけ?と、首を傾げていると。


『必要なのは勇気、恋するわたしの可能性はエベレストより高い』


 さて、ブロックのしかたは……。


『待って、自粛する、ブロックしないで』


 そこまで頼まれると気が引けるな。ギャルのクドーさんも変人だがこの陽美々も親友だけの事はある。


 さて、コーヒーでも飲んで落ち着くか。わたしはキッチンに行きインスタントコーヒーの瓶を手にする。


 ありゃ、切れてるし。仕方がない、コンビニまで買いに行こう。適当に着替えて外に出ると、陽美々が待っていた。ホントにストーカーである。


「ぽ、ぽ、好意の対象発見」


 また、亜空間な発言である。そして、陽美々は幽霊の様に足音がなく近づいてくる。


「わたしは今からコンビニに行く、付いて来るのか?」


 陽美々は嬉しそうに頷く。しかし、謎なのが足音である。全く音が聞こえない。ストーカーのもともとの意味は『そっとしのびよる』であったはず。陽美々の足音がしないのは、まさにストーカーである。うん?携帯が鳴っている。さおりんからである。


『起きた?お話ししようよ』


 さて、さおりんからである。今はコンビニに行く途中か、少し待ってもらうか。


「ライバルの匂いがする。わたしの愛は無敵」


 陽美々は鼻をヒクヒクさせている。わたしはそれを見て、匂いでさおりんだと分かるのかと関心する。


『誰かいるの?』


 少し動揺したらしい。不味いな、さおりんの問いをここは誤魔化すか。


『黒猫のリーダーだ』


 我ながらバレそうな嘘であった。わたしは嘘をつくと鼻を掻くクセがある。メッセージでもバレそうな気がしてならない。とにかく、今は外出中なので後でと返す。早くコンビニに行って、さおりんとメッセージ交換しよう。


「コンビニ到着、わたしとはここでお別れ、残念」


 ようやく、陽美々が帰ってくれるのか。


「わたしはおにぎりが食べたい」


???


「小銭で買う、貴方の分もある。一緒に食べよう」


 一瞬の疑問と後で、このまま帰るのも可哀想だと思う。仕方ないな、コンビニのゴミ箱の前にて二人でおにぎりを食べる。


「ぽ、ぽ、幸せである」


 陽美々は満足した様子で帰って行く。これは浮気のうちに入るのかな?


 そんな事を考えながら帰路につく。


 自宅に帰ると先ずはコーヒーである。インスタントコーヒーのふたを開けてお湯を注ぐ。


 いい香りだ。


 まったりと庭を眺めているとアサガオの季節が終わってしまったと寂しくなる。わたしはコスモスに水をあげることにした。もうすぐ咲くコスモスは新たな楽しみである。


 多分、この様な生活がスローライフと言うのであろう。


 黒猫のリーダーもやってくると、リーダーは朝ご飯をねだる。


「お前もお腹が空いたか、沢山あげるぞ」


 黒猫のリーダーにエサを与える。


「にゃー」


 喜んで食べるリーダーは可愛くて仕方がない。おっと、一番最後になってしまったがさおりんとメッセージの交換だ。


『おはよう』


 わたしは携帯でさおりんにメッセージを送る。その後、メッセージの交換が続き。わたしの日常にさおりんが組み込まれている事に気づく。


 一段落つくと、椅子に座り、わたしは目を瞑る。微睡の中でさおりんが追憶の恋になるのだと思う。追憶か……さおりんとの恋が本当だと確信する。


 気がつくと昼下がりであった。


 夢を見ていた、さおりんを失い、年老いてから追憶の恋として思い出したのである。


 わたしはそれから、ずっと右手を見ていた。この手に残るさおりんのぬくもりはホントである。そう、夢ではない、さっきまでさおりんとメッセージ交換していた。不安になり、さおりんに電話をかけてみる事にした。わたしは携帯のさおりんの電話番号をタッチする。


『はい、はい!』

『さおりん、ゴメン、急に寂しくなった』


 そう、わたしは多くを失い過ぎていた。体の左足首から先に、T大への夢。絶望の毎日は埋められない過去である。


『本当にゴメン……』

『わたしに弱さを見せてくれるのだね』


 さおりんにはかなわないや。自分の弱さを素直に認める。


『えへへ、それだけ?』


……。


 わたしは口の先まで出かかった『愛している』の言葉を飲み込む。さおりんのことを想うと切ないのに言葉にできない不器用な男である。何気ない会話が終わり、電話を切るとまた寂しさがつのる。


 明日の朝までの辛抱だ。学校でまた、普通に会える。


 わたしは勉強を始める。さおりんの専属教師の為に勉強せねば……。


 陽が傾きかける頃には、さおりんへの想いが募るばかりであった。

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