第16話 二人で花火
わたしはスーパーに黒猫のリーダーのエサを買いに来ていた。先ず、目に付いたのは手持ち花火セットがワゴンセールで売っていた。夏も終わりだ。在庫処分セールをしてもおかしくは無い。
一つ、手に取り。子供の頃を思い出す。純粋に花火が楽しめた時代があったな。わたしは手持ち花火セットを携帯で写真に収めて、さおりんに添付ファイルで送る。
『河原で花火をしないか?』
『えー』
『二人だけでの花火大会だ。場所は町の中央を流れる河原で行うよ』
『問題ないよ、やろう、やろう』
また、夜お出かけかと、気が引けたが、この切なさを癒してくれるのはさおりんだけである。ホント、この町の治安が良くて助かった。
『早く、花火大会をしたから、今日の夜でもいい?』
さおりんの今日、都合がいいらしく。さいわい、わたしの都合もいい。そのまま、待ち合わせ時間を決めて、夜になるのを待つ事にした。そうだった、黒猫のリーダーのご飯である。
わたしはカリカリのエサと手持ち花火セットを買い込むとスーパーを後にする。。
さて、自宅に帰ると。早速、準備をする。
花火セット、バケツ、大型のライター、ロウソクで花火に火を点けるか……で、他には何が必要だ?そうそう、ゴミ袋も持っていかないと。
義足のわたしには少しキツイ荷物の量であったが、ここは我慢である。そして、待ち合わせ場所は神社横の郵便局である。
さおりんはまだ来ていない。しかし、この郵便局は完全にわたし達の待ち合わせスポットになってしまった。時間は……十分前か。この十分はかなり長く感じる。さおりんとの待ち合わせはこれまでで何回あったであろう。そう、さおりんは今まで十分前までに確実に来ていた。心配だな、やはり暗くなってからのお出かけは不味いのかな。
そんな事を考えていると。
大量の荷物を持っている、さおりんが現れた。その荷物の多さによって十分前に来なかったとなっとくする。その中身はバケツにペットボトルのお茶を二本、ブルーシートまで持ってきた。
「さおりん、キャンプに行くのではないぞ」
「二人で花火大会だもの、備品が足りなかったら、困るもの」
ま、細かいことは無しにして、花火を楽しもう。わたしはロウソクに火を点けて、花火大会の開始である。さおりんが手持ち花火に火を点けると、シューっと、白い閃光が放たれる。それをさおりんはぐるぐる回して、わたしにアピールする。
「無限大だよ」
あ、あのマークを作っていたのか。さおりんは花火の遊び方を知っているなと感心する。それから、わたし達は何本も花火をしていく。
そう、笑顔のわたしに楽しそうなさおりん。この時間が永遠に続く事を願っていた。
……永遠の終わる時間だ。
やはり、しめは線香花火だ。わたしとさおりんは向かい合い。線香花火を始める。
「どっちが先に落ちるか競争だよ」
じじじ……。
この雰囲気は嫌いではない。むしろ憧れに近い。
ポト……。
さおりんの線香花火が先に落ちる。
「やりい、勝ちだ」
おいおい、普通は長持ちした方が勝ちだろ。わたしが抗議すると。さおりんは「勝者には賞品があるのだよ。それは、勝者のわたしには頬にキスだよ」
い?
思わぬ展開にわたしは硬直する。これは夢だ、キスをねだる、さおりんは異世界のドッペルゲンガーに違いない。
「あーその顔、現実逃避に入っているね。ダメだよ。早く、頬にキスして」
わたしは心を無にしてキスをする事にした。さおりんは目を瞑ってまっている。ここは度胸だ。わたしは風の様にキスをする。
「えへへへ、花火大会は終わりだよ。ここで一曲かけるよ」
花火の音が止んだ、静寂の河原にさおりんの選曲したミュージックが流れる。
わたしとさおりんはいつの間にか手を握っていた。この曲が終わるまで手を握っていようと思ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます