第15話 好かれる恐怖に
カラオケの帰り道、神社横の郵便局で待っていたのは陽美々とクドーさんである。
「何故に?」
わたしが問いかけると余裕の表情のクドーさんは。
「カラオケボックス一軒屋にて目撃情報があったのさ。で、先回りしてここで待っていたの」
どういう情報網だ、完全にストーカーになっている。ま、この陽美々とクドーさんは悪い人ではないが。規制対象となりうることだ。とにかく、好かれて困るというのは初めてである。
「陽美々、あなたが主役よ」
クドーさんが陽美々を前にだす。文学少女の陽美々は真紅のバラの花束を手にしている。
「好き……この花束に愛を込めて……」
プレゼントのつもりか、しかし、成り行きで貰ってしまった。しかし、真紅の赤いバラを女子からのプレゼントで普通は選ばない。ジェンダー平等などと言うがサボテンかハンカチなどの小物がベターである。
???……。
わたしに解説する程の恋愛経験があるのか?確実に無い。さて、どうしたものかと首を傾げると。
「うわーわたしも真紅の赤いバラ欲しい」
さ、さおりんそれでいいのか?恋のライバルだぞ。しかし、バラを欲しがるさおりんは真剣であった。仕方がない、半分のバラをさおりんにあげる。ところで、陽美々はバラを半分さおりんにあげても怒らないのかな。
様子をうかがうと。
「ぽ、ぽ、ぽ、見つめないで」
あーダメだ、この陽美々も変わり者だ。そこで、強敵になるのが陽美々の親友であるギャルのクドーさんの存在だ。
「あ、ぁ、不思議の国のアリスは好きですか?」
クドーさんと間が持たず亜空間な発言をしてしまった。故に、クドーさんはピーっと、眉毛をひそめ不機嫌になる。確かに不思議の国のアリス発言は不味い。
何故、アリスかと言うと陽美々が不思議の国のアリスの主人公に似ていたからだ。
黒縁メガネを外してゴスロリファッションに懐中時計でも持たせたらアリスの出来上がりである。
「その場しのぎ発言はダメです。陽美々の彼氏ならしゃんとして下さい」
クドーさんはわたしの事を彼氏と呼んだ。わたしに選択の自由は無いらしい。でも、さおりんの事は好きだ。この難儀な運命を切り開かねば。
その後、自宅に帰ると母親は目を丸くしていた。真紅の赤いバラを持って帰ってきたからだ。刹那、母親と目が合い沈黙の時間が流れる。頼む、詮索しないでくれ。心の底から願うのであった。
「ご飯ができたら呼ぶわ」
「分かったよ」
これで会話は終わった。もし、神様がいるなら感謝であった。
で……このバラどうしよう。
飾る?捨てる?食べる?ちなみに、食べるバラもあるらしい。仕方がない、枯れるまで飾るか。わたしは花瓶を探し出し。カラーボックスの上に飾る。
うん?携帯が鳴る。さおりんからだ。
『綺麗に飾れたよ』
添付ファイルに陽美々から貰ったバラの画像が付いていた。さおりんも飾ったのか。自分から欲しがったので当たり前か。
ここはさおりんが一番である事を確かめる為にメッセージ交換を始めるのであった。
メッセージ交換の合間にわたしは数学の教師を目指しているので、数学科のある大学の過去問をこなしていた。その手ごたえは上々であった。この集中力は我ながら凄いと思うのであった。
少し休むか……。わたしは冷蔵庫の中にある麦茶を飲む。その間に来たメッセージをチェックすると。さおりんから呪いのメッセージが届いていた。
チェーンメールかと思いきや。愛情表現だと言い張る。しかし、内容は呪いのメッセージである。どうやら、図書館で勉強している合間に怪しい本を見つけたらしい。
『三ヶ月後に死ね』
まだ、送るのか……さおりんは!大体、『三ヶ月後に死ね』では呪いのメッセージを超えている。そもそも、いったい、どんな本なのか訪ねてみる。
添付画像に本の表紙が映し出される。怪しさは百万馬力である。そのタイトルは『気になるあの人にメッセージを送ろう』であった。
『信じれば叶うと書いてあるよ』
さおりんから説明のメッセージが届く。その後も呪いの本か確かめる為に、添付画像を送ってもらう。何枚か画像を見て中身を確認すると、何処から見ても呪いの本である。
『恋は相手の心臓を奪い取る』
さおりんはこの一文を示してからのメッセージに時差が生じる。どうやら、何か食べているらしい。わたしが問うと。ナタデココと返ってきた。考えてみるとナタデココは関係ない。
ここは話を戻そう。
そこでだ、更に詳しく呪いの本の事を聞くと、児童書コーナーに有ったらしく、完全に不意打ちであった。
ま、子供はおまじないが好きである証拠だ。しかし、よく図書館の人々も問題なく蔵書に加えたなと関心する。多分、子供向けなのでおまじないに似たモノだと思ったのであろう。
さおりんに呪いの本か……。
改めて恐怖を感じる。これは虫をバラバラにする感覚で呪いのメッセージを書いているに違いない。そんな事を考えていると。更にメッセージが届く。
『血、血が欲しい。貴方が気を失うまで血を啜りたい』
いかん、このままでは収集がつかない。どうしたものかと首を傾げる。
考えた結果、ここは叱ってみよう。ホント、突然、さおりんの保護者になった気分だ。
『普通の人は実行しない』
叱るさわりは、このような文面でいいか。その後、呪いのメッセージをしないようにとメッセージを送る。
『ナタデココは叱らないよね?』
何故?と、さおりんに問うと。今からコンビニに買いに行くとのこと。わたしは遅くならないようにと心配のメッセージをおくる。
『大丈夫あるよ』
さおりんのメッセージを見て今日のメッセージ交換はこれで終わりかと思う。
さて、勉強に戻るか。しかし、甘かった、さおりんからナタデココの添付画像が届く。
また、メッセージ交換と勉強の二刀流をするはめになったのである。
***
朝、今日も日差しが強い。アサガオの季節も終わりに近づいてきている。暑いと言うのに蝉の声が聞こえなくなり、季節は流れているのだと感じる。わたしの感性は、この季節は切ないと認識する。
庭から戻ると冷蔵庫の前に行き。麦茶を飲もうとする。改めてボコボコの冷蔵庫のドアを見て、あれから二年経つのかと思う。
「にゃー」
黒猫のリーダーが心配そうに鳴いてくる。
「お前にも心配かけたな、もう、大丈夫だ」
わたしの足元にリーダーがきてゴロンと横になる。
「ゴロゴロ……」
リーダーをナデナデしてあげると眠そうにあくびをする。わたしは目を細めてリーダーの面倒をみる。
さて、学校に行かねば。それから、義足のメンテナンスをしてバス停まで歩く。
その後、バスに乗ると小説の文庫本を開く。この時間は嫌いではない。決してガリ勉のつもりは無いがT大を目指していたなごりだ。高校に着くと昇降口にさおりんが待っている。
ふう~。
陽美々とクドーさんの二人ではない。ホント、悪意は無いが完全にストーカーである。
「おはよう……」
何やら、さおりんは眠そうにしている。
「ジグソーパズルにハマって」
ジグソーパズル?今時、アナログな事をしているな。わたしが感心していると。
「パズルは苦手なので、さおりんが羨ましいな」
「えへへへ、ほめられた」
わたし達は二人で教室に向かうと。陽美々、クドーさんと廊下ですれ違う。
「おお、神のご加護があったな」
神のご加護か……。
ギャルのクドーさんの信じる神など邪神に違いない。世界を滅ぼす存在として勇者に討伐されるのだ。早く、勇者を異世界から召喚せねば。
うん?陽美々が頬を赤くしている。
「発見、好意の対象の男子」
少し、日本語がおかしい。どこのサイボーグだと思う。わたしが自分の席に座ると隣の教室だと言うのに二人がついてくる。このストーカーどもめ。
「メッセージアプリの交換したい」
陽美々はモジモジしながら携帯を取り出す。これこそ、まさに呪いの言葉であった。交換せねば呪い殺される。
大体、この調子では携帯の番号など直ぐに手にするな。わたしは渋々、メッセージアプリの交換をするのであった
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