第14話 挫折とカラオケ

 休日、わたしは机に向かい。勉強をしていると。携帯が音を鳴らす。さおりんからメッセージが届いた。


『寂しいの、今日会える?』

『わたしは寂しくない』


 いかんな。つい、本音を送ってしまった。しかし、本当に本音なのであろうか?確かにさおりんには会いたい。しかし、この田舎町の何処でだ?


『カラオケボックス一軒屋で会いたい』


 一軒屋はこの町にある唯一のカラオケ店である。うむ、他にカラオケ店ができないことを前提の名前であった。


『よし、一緒に行こう』


 わたしに迷いは無かった。T大を目指していた頃の自分には考えられない選択であった。出かける支度を始めると黒猫のリーダーが寄ってくる。


『依存は甘えを呼ぶ、その先にあるのは絶望だよ』


???リーダーの声が聞こえた気がした。


『このままだと、さおりんを殺すよ』


 やはり、リーダーの声だ。わたしは気持ち悪くなりトイレに駆け込む。


 ……ご飯をすべて吐いた……。


 トイレから戻ると、いつもの場所でリーダーは寝ている。わたしの過去は挫折の日々である。毎晩の様に冷蔵庫を殴っていた。それが異常な行為だとは分っていた。


 左足首から先が無い現実。それによってT大に入学する夢が終わったこと。今のわたしがさおりんに依存しているのも本当だ。わたしは黒猫のリーダーに近づき声をかける。


「お前、さっき喋ったよな?」

『……』


 わたしの問いにリーダーは何も言わない。そうだな、猫が喋る訳がない。


 しかし、『さおりんを殺す』か……。


 ボコボコの冷蔵庫を思い出すと、もしかしたら、本当にさおりんを殺すかもしれない。


……。


 さおりんがカラオケボックスで待っている。自宅を出よう。わたしは過去にも『声』が聞こえた事を思い出す。今回は黒猫のリーダーが喋るとの形だ。それは心の闇が具現化した気分だ。その狂気がさおりんを殺すとのことである。


ふーぅ。


 なんとかカラオケボックスに着いた。わたしは腕時計を見ると。待ち合わせ時間から三十分早い。流石に早く来すぎた。


「だれだ?」


 わたしが一軒屋の前で立っているとさおりんが後ろから抱きついてくる。


 温かい……。これがさおりんのぬくもりなのか。何を迷っていたのであろう。わたしの人生は陽の当たる世界に居るのだ。


「久しぶりのカラオケだ、今日は楽しもう」

「だから、だれだ?」


 ホント、さおりんらしい。ここは付き合ってあげないとダメか。わたしは頬をカキカキしながら、さおりんの前に行き。


「さおりんでしょ」

「正解」


 さおりんは満足したのか、えへへへへ、と笑っている。わたしも満足して笑顔になる。


 しかし、さおりんに付き合うのは改めて恥ずかしい事をしたなと思うのであった。


 カラオケボックス一軒屋は部屋の広さがすべて同じで、要するに二人だと少し広い。そして、基本はドリンクや食べ物は持ち込み制である。わたし達は普通に二時間と言って部屋に向かう。


「わたしが一番!」


 カラオケルームに入るとさおりんはハイテンションである。そして一曲目は有名なアニソンであった。


♪♪♪

 

 わたしも曲を打ち込む、改めて考えてみるとわたしの選曲は古い曲ばかりである。

例えば一曲は戦後の歌姫と呼ばれた曲であった。


 しかし、さおりんはあい○ょんがお気に入りらしい。その後もわたしの選曲は古い曲ばかりである。


『盗んだバイクで走りだす……♪』


「なにそれ?」


 わたしがカリスマの曲を歌うとさおりんは不思議そうにしている。カリスマと言っても昔の話しか。


 ここは高校生らしくと思い。よさげな歌を探す。そう、必要なのは最新の選曲である。試しに一曲入れてみると……。


「だから、誰?」


 ハッハッハッ、最新曲なのに。その後は二時間、二人でカラオケを楽しむ。


 選曲のセンスなど人それぞれ、恥ずかしいぐらいが丁度いいのである。カラオケボックスから出て、神社横の郵便局まで一緒に歩く。


『北千住駅のプラットフォーム……♪』


 さおりんが鼻歌を歌い始める。やはりあい○ょんである。まだ、歌い足りないらしく、声が町の中に響く。


 さて、今日は楽しかった。

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