第13話 恋のライバルは百万ボルト 後編
目が覚めると朝から雨である。わたしは窓の外を見ていると、黒猫のリーダーがずぶ濡れになって帰ってくる。
「リーダー、朝帰か?」
リーダーはそんなこと関係なくエサをねだる。
「仕方ない猫だな。カリカリをあけるから、家の中にいるのだぞ」
そんな事を言いながら朝の支度をする。ちなみに、今日は体育の授業がある。この雨だ、おそらく体育館で授業だろう。
しかし、何度も言うが、わたしは義足で、体育の授業はいつも見学である。わたしはブルーな気分で傘をさして自宅を出る。憂鬱な登校の道のりの後、高校の昇降口に着く。ギャルのクドーさんと陽美々に偶然にして会う。
「おはよう」
わたしから挨拶をするのも気が引けるが問題無かろう。
「あ、うぅ、おはようございます」
陽美々がうろたえながら、挨拶を返す。
「よし、ちゃんとできた」
ギャルのクドーさんが陽美々を誉めている。陽美々は嬉しそうであり、頬を赤くしている。これは待ち伏せかもしれないなと気づく。一歩間違えるとストーカーだ。
しかし、この二人には悪意が無く純粋に仲良くしたいらしい。
そんな陽美々とクドーさんを見てどうしたものかと首を傾げていると。さおりんがやってくる。
これは修羅場になるのか?
さおりんは二人に気づくと、わたしと腕を組と「わたしの大切な人なのよ」と言って威嚇する。
「貴女がさおりんね、わたし達は負けないから」
ギャルのクドーさんの言葉はやはり、波乱の予感をかきたてていた。しかし、文学少女の陽美々はギャルのクドーさんの後ろに隠れてしまった。
「陽美々、隠れていては恋のバトルには勝てないわよ」
「う、ぅ、わたし頑張る」
陽美々は静かにギャルのクドーさんの後ろから出てくる。
「わたしは健治さんの事が好き、貴女は?」
「そ、それは……あの、友達だし。ても、独りはイヤ、そうそう、わたし達は特別なの……」
大丈夫か、さおりん、負けそうだ。さて、どうする?
「さおりん、時間だ、一緒に行こう」
わたしは仕方なくさおりんに助け舟をだす事にした。さおりんの背中を押して、昇降口から連れだす。教室に着くとさおりんは大きなため息を吐く。当たり前だ、突然、恋のライバルが現れたのだ。わたしとしてもさおりんが傷つくのは見たくない。
そんな事を考えながら授業が進む。
あーぁ、体育の時間になった。いつもの様に体育館の隅で見学してと。さおりんがわたしの横に座る。
「女子は簡単に見学ができるのだよ」
ふ、仮病か。いつものさおりんに戻ったようだ。
わたしは体育の授業を見ていると、暇なのである。 男子はバスケ、女子はソフトバレーボール。こぼれ球のバスケットボールが近くに転がってくると。わたしは立ち上がり、ボールを手にしてコートに返す。
バスケか……。交通事故で左足を失う前は憧れたものだ。
「おい、フリースローだけでもするか?」
体育教師が気をつかったのか、わたしに声をかける。どうする?一回ぐらいはするか?それは気まぐれであった。イヤ、正確に言うとさおりんのおかげだ。
わたしは基本的にコミュケーションが苦手なのでさおりんがいなければ断ったはずだ。断れば、体育教師に嫌われ、更に孤立する。そんな選択がさおりんの影響で変わる。わたしの運命は好転し始めた。
そして、授業が終わると皆は教室に戻る。結局、フリースローは入らずに終わった。教室に着くと担任の角田先生が待っていた。
「この後の授業は、避難訓練をするつもりであった。しかし、雨天中止だ」
抜き打ちの避難訓練が雨天中止とはいかに。結果として、全校生徒が自習になった。突然の自習でその準備ができておらず、全校生徒が同じ内容のプリントが配られていた。
それは三年生の数学の問題である。当然、二年生のわたし達には解らなく。居眠りをする者、プリントに落書きをする者と荒れに荒れていた。
それを黙認する、角田先生はカリカリしながら教卓の前に立っていた。その後、角田先生は時計を見て時間まで立っていた。そして、角田先生はプリントを回収することなく職員室に戻る。
わたしはと言うと、三年生の問題でも解けたので真面目に答えを書いていたのである。ふと、さおりんの方を見るとさおりんは寝ているのであった。ま、これぐらいのアクシデントは良い刺激であったので、またやって欲しいと思う。
「あー疲れた」
さおりんが近づいてきて、愚痴を言う。無理もない角田先生の前で寝るのだ。疲れるだろう。そんな休み時間は終わり、次の時限の通常授業が始まろうとしている。
「普通の授業もかったるいな」
さおりんはブウブウ言いながら席に戻るのであった。
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