第10話 ショッピングモールでデート 前編

 蓮華の咲く花畑で,さおりんが現れる夢を見た。それはさおりんの真っ白なワンピース姿が印象的であった。


「蓮華の花が綺麗ね」


 さおりんは静かに語り、その声は今にも消え去りそうであった。


「あぁ、さおりん……何故、そんなに悲しそうなの……?」

「本当に優しいのね。でも、わたしは旅立つの」

「何を言っているのだ?」


 わたしの問いは聞こえ無かったのかさおりんは蓮華の花をつみ、わたしから少し離れる。さおりん?わたしが追いかけると、左足が義足でなく、元どおりの左足であった。


……普通に歩いている……。


 その後、一瞬の黒い風か吹くと。さおりんは居らず左足も義足である。


 ―――う。


 わたしは暑さで目が覚める。夢か、嫌な夢であったな。まるで、さおりんと左足を天秤にかける気分であった


 イヤ、正確には両方を失うのだ。治るはずのない左足首から先がうずく。


 T大を諦めて教師になる新たな夢もさおりんのおかけであり、平和な日常でさおりんを失うと言うのだ。


 わたしは悪夢の後、月を眺める事にした。半分の月であった。確かに綺麗であったが何か胸騒ぎをする気分であった。


 黒猫のリーダーもいつもの場所で寝ている。少し携帯を見よう。わたしは何となく動画投稿サイトを開いていた。


 左足がうずく日にはこの曲にかぎる。


♪~。


 選曲した音楽が終わると。寝直すことにした。今日も熱帯夜で寝苦しく、寝付くのに難儀であった。翌朝、何事も無かったように一日が始まる。気まぐれで育てているアサガオに水を与えて。朝食を食べる。


 メニューはベーコンエッグだ。わたしは基本ベーコンエッグにはしょうゆ派である。黒猫のリーダーも起きたのか足にすり寄ってくる。勿論、リーダーにも朝ご飯を与える。


 なにか忘れている気がする。そうだ!今日はさおりんとショッピングモールに行く約束をしていた。わたしは急いで洗面所で寝ぐせを直して出かける準備をする。財布の中身を確認すると、寂しいかぎりである。


 しかし、なにか買う予定は無いので問題ない。


 この田舎町からショッピングモールまで行く道のりは大変で一日が完全に潰れるのである。そもそも、さおりんが行きたいと駄々をこねて決まった。確かにデートと呼べるが、わたしはそのハードスケジュールで全くのるきでない。


 ふぅ~、さて、切り替えるか。せっかくのさおりんと二人で会う機会だ。わたしは自宅を出るとバス停に向かって歩き始めると。


『バス停にて待つよ』


 さおりんからのメッセージが届く。ありゃー、少し早く出発したはずがもうバス停に着いているのか。わたしは急いでバス停に向かうが義足の足が歯痒い。


 これが現実か……。


 なんとかバス停に着くとさおりんが手を振って喜んでいる。朝はショッピングモールなど要らぬとブツブツ言っていたが。テンションの高いさおりんを見て遠出も良かろうと思う。


 しかし、ショッピングモールへの道は遠く。バスに電車、また、バスと過酷な道のりであった。


 ようやく着くとショッピングモールの上から下までさおりんに連れて行かれる。印象的だったのがパワーストーンのショップである。白い石のブレスレットを一つ買う事にした。さおりんは薄紅色のブレスレットである。


「うふ、可愛い?」


 早速、腕に着けて自慢するさおりんは可憐であった。さおりんは艶やかな黒髪の美人である。綺麗なブレスレットで着飾るだけでぐーんと可愛くなる。


 はて?


 可憐?可愛い?綺麗?はたしてさおりんの代名詞は何であろう?難しい問題である。とにかくさおりんは魅力的であることは事実だ。ここは無難に『可愛い』でいこう。


「あぁ、可愛いぞ」

「ありがとう、次は鞄を見るよ」

また、上から下まで連れて行かれる。

「す、少し休もう。一階にWバーガーがあったので、そこで休もう」


 ハイテンションのさおりんを止めて休むことにした。さて、わたしはショッピングモールの中を上から下まで周って、Wバーガーでヤレヤレとコーラを啜る。


 さおりんはビッグWをガツガツ食べていた。その注文方法は単品と水のセットで深く考えたら負けである。わたしはコーラとチーズバーガーにポテトのセットだ。多分、つまらない選択だと笑う人もいるだろが問題ない。そんなことを考えながら食事を続けると。


 さおりんは口の周りが汚れたので、例の紙でふきふきする。しかし、例の紙は枚数が多かったり少なかったり微妙なバランスである。さて、わたしも食べ終わった。行くかとさおりんに無言のアピールをするが、バックを開けて固まっている。


「色付きのリップしかない……」


 色付きのリップか……さおりんの晴れ姿を見れるのかな。


「女子にとって唇に紅をさすのは特別なことなんだよ」


 さおりんの力説に関心するのである。


「それで、付けるのか?」


 しばらくの間、ぷるぷる震える、さおりんは結局のところ付けなかった。


「お子様でも、良いもん、いつの日か付けるよ」


 では、何故、バックの中に入っている?ひょっとしたら、わたしの前だから付けなかったのかもしれない。


「よし、も一度、上から下まで行くよ」


 まだ、テナントの店を周って見るのか?さおりんの勢いは無限大かと感じるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る