第8話 天体観測 前編

 翌日、今日は天体観測の日で、さおりんとデート気分だ。天気は晴天で空を見上げると星が輝いていた。


 待ち合わせ場所は神社の隣の郵便局。町の神社の小道を登って行くと。開けた高台に出る。わたしは早く来すぎて待つのかと頭をカリカリしていると。さおりんが現れる。どうやらさおりんとは気が合うらしい。


「こんばんは、晴れたね」

「うん、天体観測日和だね」


 そう、天体観測と言っても、望遠鏡は無く、ただ星を眺めるだけである。と、言っても星空アプリを使い色々盛り上げる予定であった。


 しかし、わたしが事前に星座アプリの準備しなかった為に使えなく。ただ星を眺めるだけであった。それでもさおりんはいいと言ってくれて今日の天体観測となったのだ。そして、神社の小道に着くと。


「さあ、高台まで登ろう」

「おじいちゃん、疲れたら手を貸してあげるよ」


 さおりんの言葉は義足だからと言ってバカにしているかと思っていると。


「その目だよ、野心に満ちて頂点に立とういう目の輝き」


……?


「普段は死んた魚の様な絶望的な眼差しなのに。わたしの言葉に時々反応して輝く瞳だね」


 わたしがそんなさおりんに驚いていると、更に言葉が続く。


「でもね、優しい目の時もあるのだよ。わたしが勉強で困っている時は凄く優しい眼差しなの」


 さおりんには勝てないな。わたしの本質を見抜いている。挫折とは恐ろしいモノで甘えが甘えを呼び腐った人生になってしまう。しかし、彼女はそんなわたしを救ってくれた。ふっ、止めておこうさおりんを失った時の絶望の傷口が広がる。


「また、目の輝きが無くなっています」


 さおりんはバックをゴソゴソし始め、携帯を取り出す。


「そんな、あなたに星空のプレイリストです」


 さおりんは携帯から音楽を流し始める。


「癒やすメロディを聴いて下さい」


 いつも以上にテンションが高いさおりんは素敵であった。


 ♪♪♪


 結局、高台まではゆっくり登ることになり。二人は色んなことを話した。飼猫のリーダーに噛まれたときの痛さ。さおりんは流行りのアイドルの話し。色々話していると、高台に着いてしまう。


 そこは満天の星空であった。


 夜空を眺めていると不思議な気分になる。さおりんはわたしの横に近づき手を握ってくる。


 それは痛みであった。


 わたしの挫折感が邪魔をしてさおりんの小さな手を握り返せずにいた。そんなさおりんの横顔をよく見ると、暗闇でさおりんは泣いていた。


「さおりん?」

「ゴメン……なんか感動しちゃって……」


 純粋なさおりんに対してわたしは挫折感に支配されていた。


 もし、今、わたしが泣いたなら、さおりんとは対極軸の涙であろう。


 心が痛い……。


 交通事故に合って、入院したあの夜の事を思い出していた。ぐるぐるに包帯が巻かれた左足は嫌な予感しかしなかった。


 その後はリハビリの日々となりT大への勉強は中断せねばならないのであった。そして、高校受験で地元では有名な私立の進学校に不合格となり。


 わたしのT大への夢は終わった。


『……』


 交通事故に合った地獄の始まりの夜のことを思い出していると。


「沈黙の祈りは終わった?」


 さおりんはぷ~っと頬を膨らましていた。


 しまった!!!


 今はさおりんとの大切な天体観測の時間であった。あの夜の事は強制的に終わらせると、わたしはさおりんの顔を見直す。


 この雰囲気はキスなのか?


「あぁ!」


 さおりんの突然の言葉は流れ星であった。興奮するさおりんは慌てて携帯を取り出す。動画に遺すつもりらしいが間に合う訳もなく。


「あ~ぁ」と、落胆するさおりんはしょんぼりであった。


 そして、わたしとさおりんのキスは流れ星に取られて、おあずけをくらった飼猫の気分である。


 そうだ!


 わたしは携帯を取り出して黒猫のリーダーの画像をさおりんに見せる。さおりんは黒猫のリーダーの画像を見て。


「可愛いーーーモフモフしたい」

「きっと、リーダーも喜ぶよ」


 また、良い雰囲気である。でも、さっきとは少し違う。わたしの挫折の日々が癒される思いを感じていた。


 その後も、わたしの横にさおりんがいて星を眺める時間が続いた。静寂と騒がしいの繰り返しであった。


 すると、突然、さおりんの携帯のアラームが鳴る。シンデレラではないが、魔法が解ける時間だ。それは、さおりんの門限である。


「さおりん、そろそろ、時間だ」

「……」


 さっきまで騒いていたさおりんは寂しそうにしている。


「最後はこの曲で終わろうよ」


 ♪♪♪


 さおりんの携帯から『蛍の光』が流れはじめる。おいおい、閉店かよ。わたしが曲の選曲にツッコミを入れると……ふわりとさおりんの口がわたしの頬をさす。


 それはキスであった。


「えへへへ……」


 さおりんからのキスが『蛍の光』のBGMとは恐ろしい。やはり、女子は魔物だ……。


「えへへへ、キスの感想はどうだい?」


 わたしがさおりんの問いに我に戻ると奮闘して答える。

「バ、バカか頬にキス程度で感想などあるか!」


 ダメだ、明らかに動揺している。落ち着け、キスと言っても頬にくちびるが当たっただけだ。

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