第7話 夏、夏、夏

 朝、今日は登校日であった。


 久しぶりの制服を着ると引き締まった気分になる。少し時間があるな、わたしは庭に出てみることにした。庭を散策すると黒猫のリーダーが木陰で寝ている。寝ていると言えば、さおりんである。起きているか心配になったのでモーニングコールをしてみた。


『……』


 電話に出ない。寝ているのか?時間だ、仕方がない、さおりんの事は横に置いて、家を出よう。


 ちなみに、今日は学年単位での登校日だ、授業以外の重要な事と言えば進路調査である。


 学校に着くと昇降口でさおりんと会うのであった。


「おはよう」

「お、おう」


 艶やかな黒髪に寝ぐせが付いている。この様子からして寝坊したと思われる。わたしのモーニングコールに出れない程の寝坊らしい。


 さて、進路調査は事前に書いておいた調査表を最初に担任が回収して、その後で個別に面談するのであった。


 他の生徒が担任と面談中は教室で待機となり、ざわざわした雰囲気であった。基本、義足で浮いているわたしに友達はおらず、鞄から小説を取り出して読み始める。


 うん?さおりんが担任との面談を終えて教室に戻ってくると、夏休みに図書館で勉強を教えている時と微妙に違う。簡単に言えば目が泳いでいるのだ。わたしはさおりんに何を提出したか聞いてみると。次の三つを書いたらしい。


① 看護師

② 保育士

③ アパレルショップの店員


 うむ、普通の進路であった。しかし、最初に提出した進路表は……。


① 高校三年生

② 大学二年生

③ 中学一年生


 で、だったらしい。大体、中学一年生と言えば、過去のことである。一番まともな大学二年生でさえ文系なのか理系なのかさえ不明であった。


 勿論、そうとう怒られたらしい。それに対して、わたしは教師一本で行くともりだ。担任にも評価されているので簡単に終わった。


 目が泳いでいる、さおりんに近づくと頭をナデナデしてみた。怒ると思いきやゴロゴロと目を細める。それは黒猫のリーダーに似ていて、前世は猫かと思わせる行動である。気がつくといつものさおりんになっていた。


「おし!登校日が終わったら、コンビニのカウンターでまったりだ」


 それはアイスコーヒーの美味しい季節であった。


           ***


 明日はさおりんとの天体観測の予定である。さて、困った、一口に星座アプリと言っても色々ある。これは実際に使ってみないとダメだ。


 そもそも、明日は晴れるのか?天気予報を見るが晴れ時々曇り……雨はないか。更に詳細な天気予報を探すと。


『晴れ時々曇り』


 同じかよ!要する未来は分からないとの事であった。しかし、アプリに頼る天体観測もつまらないが、さおりんと二人で夜空を眺めるだけで十分である。


 そう、良い雰囲気になればキスの一つもできそと妄想する。


 さおりんも高校生だ、夜に二人で出かけるのだ。それなりの覚悟をして欲しいものだ。


 うっ!鼻血が……。覚悟し過ぎたらしい。そうそう、話しを戻すと星座アプリである。明日が本番なら今日中にアプリを確かめないと。


 今の時間は18時、夏場なのでまだ明るい。安心したのもつかのま空はどんよりと雲っている。


 この後の天気予報を確認するとはやはり曇りであった。やっちまった、わたしは頭を抱える。とにかく、さおりんと相談しよう。わたしはさおりんの携帯に電話をかける。


『おう、何用だ?』

『さおりん、明日の天体観測だか、携帯のアプリ無しでも大丈夫か?』

『えー楽しみしてたのに!』


 そうか……。アプリの種類が多いのでやはり事前に調べないと無理だし。


『ゴメン、わたしの準備不足だ』

『大丈夫、今、音楽のプレイリストを作っているよ』


 夜空に似合うミュージックか……。さおりんらしい、普段は『おう!』とか女子には似合わないこともあるのに、ここぞと言う時に可憐であった。


『ありがとう、ただ、星を見るだけの天体観測でいいのか?』

『えへへへ、楽しみにしているよ』


 電話が終わると心が和んでいた。そう言えば、気まぐれで育てているアサガオに水をあげる時間だ。わたしは庭に出るとアサガオに水をあげる。


 少し歩くだけで疼く左足はわたしに絶望を与えたなごりであった。


 さおりんのいる未来か……。わたしは幸せ者だ。

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