第4話 夏祭り 後編

夏祭り本番で人混みの中にいた。さおりんを見失いそうになり、上手く動かない左足を呪っていた。


「わたしはここに居るよ」


 さおりんがわたしに近づき手を握る。小さく感じる手の感触に血液が逆流しそうな気分だ。


 わたしは素直に人混みの中でさおりんの手を握り返す。今日のさおりんは何時も以上にいい香りがする。そう、わたし達二人に言葉は要らなかった。


「あ、焼きとうもろこしだよ」


 手は離れ、さおりんは出店の前にダッシュする。


 あれ?


 良い雰囲気だったのに……。


 恋するわたしに永遠は無いのかもしれないとふさぎ込む。


「早く、早く、焼きとうもろこしだよ」


 少し離れさおりんから声が聞こえる。ここは気持ちを切り替えてと……。わたしはさおりんがダッシュしたとうもろこし屋に近づく。


「三本は食べたいよな」


 おいおい、それは無いだろうとさおりんの言葉に難儀して、わたしはどう反応したらいいか首を傾げていると。


「おっちゃん、この太いのちょうだい」


 結局一本にしたが一番大きいのを選んだのである。さおりんはガリガリととうもろこしにかぶりつき、幸せそうにしている。


「この甘辛のたれが家では再現できないのたよ」


 ほーと、関心していると。


「変身美少女のお面もある!」


 焼きとうもろこしをわたしに預けて、また、ダッシュする。


「これ下さいな」


 変身美少女のお面を買うと。早速、さおりんはまとめた髪につける。そんなさおりんを見て、わたしはもう満足していた。


 これで良いのだ……。


 さおりんとの距離が近づき過ぎては失った時の反動が激しい。わたしはさおりんとの距離を感じていた。失った左足が落ち着いている現実に諦めに似た感情に支配されていたからだ。


 と……。


 再び、さおりんが小さな手が、わたしの手を握りしめくる。


「きっと、世界は終わらないよ」


 は?


「明日、世界が終わる事でも考えていたでしょう」


 似たようなものだ、さおりんのいない世界などに興味はない。


「わたしはこの夏が終わっても幸せでいられる自信はあるよ」


 さおりん……。


 わたしは時間も遅くなり帰ろうかと考えていた。何よりさおりんとの特別な時間が儚く感じたからだ。それなのに、さおりんは続きが有ると言うのだ。


 さおりんと一緒の未来か……。


 わたしは再びさおりんの小さな手を握り返して、


 この物語はSFではなく恋愛物を歩んでいるのかと思うのであった。


       ***


 カラン、コロン……。夏祭りの帰り道でさおりんの下駄の音だけが辺りに響いていた。田舎町なので辺りは暗く五十メートル程先の街灯だけが光っていた。


「今日は楽しかったよ」


 さおりんは上機嫌で街灯の下まで走りわたしに感謝を言う。その姿は街灯に照らされて、ミュージカルのスターの様に輝いていた。


 それはわたしだけのヒロインであった。


 さっきまで下駄で足が痛いとブツブツ言っていたのが嘘のようである。わたしの心が高鳴り、さおりんは確かに可愛いのであった。


 すると、遠くの空で雷の音がする。あちゃー、夕立か……。


 わたしはさおりんを家まで送って行くか迷うのであった。


「さおりん、一人で帰れるか?」

「勿論、大丈夫ですよ」


 何も無い町だが治安だけは自慢できる。ここはさおりんの言葉を信じて途中で見送る事にした。


 カラン、コロン……。


 次第に遠くなるさおりんの下駄の音に寂しさは頂点であった。


 おっと、ここで夕立に遭い濡れてしまっては意味がない。


 わたしは帰路を急ぐのである。確かにTシャツに短パンなので濡れてもいいがさおりんと一緒に買った焼きそばがダメになるのは惜しい。


 そうだ!さおりんの携帯に電話しよう。


 電話代が使い放題のプランなのでこちらからかければタダである。これでさおりんが安全に帰れたか確認できる。


『プルルルル』


 なかなか、さおりんが出ない。この時間が一番厳しく感じた。


『はい、はいー』


 繋がった、わたしは一安心するのであった。


『それで、何用?』


しまった、話題を考えてなかった。しかし、不思議なもので会話は途切れることなく続いた。さおりんが自宅に着く頃にはわたしも家に着いていた

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