第5話 ケース1 女子高校生失踪事件④

「若い女がこんな時間に出歩くなんて、馬鹿なのか?」

「う、す、すいません」

 頭どついた文句を言いたいけど、正論が過ぎて黙り込む。

 ――けど、私、助かったんだ。

「おい」

 私は地面にへたりこむ。安心したら足の力が抜けちゃった。

「ち、仕方ない。俺の事務所でしばらく休んでいけ。運ぶから、少しだけ体に触れる、構わないな?」

 うん、と頷くと、わわ! お姫様抱っこされた。

 やっぱり、男性って力が強いんだ。マッチ棒みたいに軽々と私を運んでいく。――触れたところが温かくて少しホッとする。

「て! 私ってば」

「なんだ? 暴れるな」

 気恥ずかしいけど、……仕方ない我慢しよう。

 彼は私を抱えたまま器用にドアを開け、中へと入った。

「暗いですね」

「外出してたんだ。ここに、座ってろ」

 ソファに私を下ろすと、彼は電気を付けた。

 光に目がくらむ。この瞬間が苦手なんだよね。

「ほら」

 無造作にカップに入ったお茶を差し出される。

 礼を言って受け取り、一口。ほう、安もんですが、温かかくて良いですな。

「失礼なこと思わなかったか?」

「い、いいえまさか」

 す、鋭い。下手なことは考えないどこ。

 もう一口飲んで、周りを見渡す。……んー、探偵事務所っぽいな。部屋の左右は書類の入った棚があって、中央にテーブルと私の座るソファがある。

 彼は、どっかりと入り口の正面奥にあるデスクに座った。ん? ちょっと待って。

「あなた、グッドバーガーで私に指輪を届けてくれた人ですよね」

「……君は、あの時の子か。頭が軽そうな子だと思ったけど、正解だったようだな」

「な、なんでそこまで言われなきゃいけないんですか?」

 助けてもらってなんだけど、ひどい人だ。口が悪い。

 私はきっと鋭い視線で睨んでいる。けど、

「俺の言ったことは間違っていない。そうだろう?」

 もっときつい視線で睨まれた。うう、蛇ににらまれたカエルってこんな気持ちなのかな。

「……はあ、で、夜遊びか? それにしては服装が質素だが」

「違います。友達を探してたんです」

 男の人は、目をスッと細めた。

「どういう意味かな?」

「友達が失踪したんです。それもただの失踪じゃなくて、女子高校生失踪事件に関係があるみたいで」

「ふむ、俺もその事件は知っている。それで、そう思うだけの何かがあるんだろう?」

 私は、スマホを取り出して、例の画像を見せた。

 彼は椅子から立ち上がり、スマホをのぞき込むと納得したように頷いた。

「なるほど、女子高校生失踪事件と関係がある可能性が高いようだ」

「でしょ。私、心配で、どうして良いか分からなくて」

 ダメ、グワーと気持ちが高ぶって、涙が止まらない。知らない人の前で泣くなんて笑われちゃうよ。

 ……でも、歪む視界に映る彼は、真剣な顔でティッシュを差し出した。

「ティッシュじゃなくて、ハンカチじゃないんですか?」

「うるさい、元気になったら帰れ」

 私は首を強く振る。

「帰れません。冷夏は今も苦しんでいるかもしれないんです。……あの、探偵さんですよね。冷夏を探してくれませんか? すぐには報酬を払えないけど、バイトして後から払いますから」

 彼は、自分の席に戻ると、またどっかりと座る。

「……残念だが、探偵事務所じゃない。まあ、何でも屋だから、あながち間違いでもないが」

「何でも屋って、もしかして」

 彼は、私の瞳をまっすぐに見つめ言った。

「俺は来世 理人(らいよ りひと)という。この『魔眼屋』を経営している者だ」

 マジで! 私はカップをテーブルに叩きつけ、外に出る。

 寒い、暗い、スマホ、スマホ……どうだ。

「魔眼屋の看板。え、本当に」

「本当も何も看板を見れば分かるだろう?」

 私を追って外に出た来世さんは、妙に怖い瞳で私を見下ろした。

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