第3話 ケース1 女子高校生失踪事件②

「あら、いらっしゃい」 

 火事みたいな真っ赤な夕日の中、私たちを出迎えてくれたのは、冷夏の母親、祥子さんだった。

 高校生の娘がいるとは思えないほど、若々しくて、ちょっと憧れだったりする。

 この親あってあの子のありといったところで、茶目っ気のあるお母さんだ。……けど、今は疲れたようにしか笑ってくれない。

「冷夏のことよね。あの子、やっぱり帰ってこないわ」

「……そうですか。あ、あの、警察には相談したんですか?」

 という、私の問いに祥子さんはコクリと頷いた。

「ええ、警察には相談済み。でも、何もわかってない状態よ。誘拐なのか、どこかで怪我をして動けないのか。全然、もう……」

 稲妻が、駆け抜けたみたいだった。祥子さんが、泣いている。信じられない、泣いてる姿なんて見たことがない。

「祥子さん、冷夏のスマホを見せてくれませんか?」

「スマホ……どうしてかしら?」

「あの、女子高校生失踪事件ってご存じですか?」

 祥子さんの目がクワッと開かれた。

「里香ちゃんもそうだと思ってるのね」

「……まさか、冷ちゃんのスマホにも例の画像が?」

 藍子の言葉に、祥子さんは落ち着かない様子で頷き、猫ちゃんの絵柄だらけのスマホをエプロンのポケットから取り出した。

「ええ、これを見てちょうだい」

 スマホに何か映ってる。でも、夕日のせいで見えにくいな。

「これ、そうかもしれない」

 藍子が手で影をつくり、画面を覗く。倣うように私も見る、……なにこれ気持ち悪い。

「綺麗な人の肖像画、だけど肌が青白いし、背景は不気味だし気持ちの良いものじゃないわ」

「そうなのよ。……ねえ、これも見て頂戴」

「きゃ」

 祥子さんがスクロールした画面に、ウジ虫が目から飛び出した女性が映し出された。絵みたいだけど違う。実物の死体が、さっきの肖像画を模した構図で撮影されている。

 ……最悪。

 藍子は、青ざめた顔で画面を指差した。

「これ、だ。ネットにこの画面が出回ってるの。まさか、冷夏は」

 続きの言葉は、のどに詰まったように藍子の喉から発せられなかった。

 沈む夕日に同調するように、私らは黙り込んだ。秋というか、冬のような寒さに私はブルりと身震いした。

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