清瀬隆

前口上

 私が清瀬姓になったのは四歳の頃だ。元の苗字は今更言いたくもない。私は孤児で、一歳頃から施設にいた。引き取ってくれた家族が清瀬家で、私はその日から清瀬隆になった。

 清瀬家には初めから小学生の娘がいた。突然やってきた弟に喜び、はしゃぎ、ずいぶん可愛がってくれた。加奈子はひとりっこで、暇をしていた。だから一緒に遊べる兄弟が欲しかったのだ、そして施設内で一番年下だった私が選ばれた。

 加奈子は、いいや小学生時代の子供は、知識が乏しくて無邪気に残酷だ。本当は妹がほしかったらしい。当時四歳の私はそれを知らなかったし、同じように無邪気で残酷で、無知だった。

 おいしゃさんごっこがしたいといわれて、いわれるままに服を脱いだ。七歳だった加奈子が小さな手に握っていた鋏は迷いなく私の。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る