生きている中で、「こりゃ、間違えたな」と思う機会はそこまでないように思っていた。目の前で怒鳴る上司。それを冷たい目で見る同僚。俺は、話半分で今日の晩飯を考える。


どうしてこんなふうになっちまったのかな。


そうやって、上司の頭越しに見える外を見る。外では、鳩だか烏だかが、何も考えてなさそうに飛んでいる。


いいよな、鳥って。何も考えずに空飛んで、飯食って、子供作って死んでいく。意味のわからなかいジジイに怒られることもないし、周りから冷たい目で見られるようなこともない。そこには自由と希望と、解放がある。

 

そんなことを考えていると、目の前の烏が自分に向かって飛んできた。


あっ、烏がこっち向かってくる。


 烏は窓にぶつかり鈍い音を立てた。上司はびっくりして振り向き、同僚も音の先を見た。


 俺だけが、別のところを見ていた。


俺は、どうせ違うんだからさ、なんか、違うことやりてぇよな。


 そう思って、目の前のモニターを持ち上げ、上司の頭に振り下ろした。画面を頭に突き刺したものだから、バチバチッと音を立てて上司の頭がめり込んでいく。


そういや、パソコンに首突っ込んで自殺する話あったよな。そんなカルトゲームを思い出す。


 女性の同僚は、悲鳴をあげ、先輩たちは飛んでくる。俺はモニターを再度持ち上げて、また上司の頭に振り下ろす。


 面白い。


上司の顔は驚きと苦悶に溢れて、禿げた頭からは血がツーっと流れている。

 俺はもっと面白くなって、キーボードを先輩の顔面に投げつけた。机にあるのもを同僚の顔を目掛けて投げて、近くにいた女を自分の元に引き寄せ、首を絞めた。女は股から何かを垂らした。


オフィスは阿鼻叫喚になった。


 俺だけが笑っていた。


 烏がカァと鳴く。


 血塗れの烏が。


 あぁ、俺は壊れちまった。


 窓ガラスに頭をぶつけて、俺はとうとう逝かれちまった。だから上司を殴り女を嬲る。何人もの男が俺を羽交締めにしようとするが、俺は知らない。


 烏は自由だ。


 俺は窓にぶつかり血を流す。 窓ガラスは割れて、俺は地に落ちる。


そして、落ちる時、俺は思う。


どこで間違ったんだろうな。


 烏の鳴き声だけが頭の中でこだました。

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短編喫茶店 θ(しーた) @Sougekki

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