それから

放課後、小柳達の買い物に付き添いで付いてきた水野はバレンタインが近いからか、店内中に貼られているチョコの手描きの広告に目が行った。

「そうか、あれからもう一年経つのか。」

バレンタイン、その単語を見て思わず一年前の2月14日を思い出す。クラスの女子からチョコを貰った事、何故か一緒にいた和知井が怒り出した事。あの後以降何故か和知井は俺たちを避けている。恐らく理由は自分だけチョコを貰えなかったからだということは今の水野には分かっていた。それが気になり沙月にも以前そのことを話したが

「え?だって元々私、和知井君とそんなに仲良くなかったじゃん。しかも和知井君甘いの嫌いって言う顔してるからまあ、いいかなって」

とまあ、こんな風にケロっとした顔で言われてしまった。やはり彼女は元々あげる予定は無かったらしい。これは俺の勝手な想像だが、きっと和知井はチョコを貰えると思っていたのだろう。でも貰えなかった。なんて悲しい男なんだ。思わず同情した。

「おい!水野行こうぜー」

買うものを決めたらしい小柳の声が聞こえた。久しぶりにバレンタインの日のことを思い出したからか、なんとなく棚にあるチョコが目に入りそのまま一つ摘んでレジに向かった。

「もうすぐ、バレンタインだな」

先ほど買ったチョコを口に入れながら小柳達に呟いた。和知井は今頃どうしているだろう。元気でいるのだろうか。苦い苦い、このチョコより苦い彼の思い出がどうか報われますように。そんな事を思いながらチョコを飲み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る