第7話 決戦!!戦慄のスナイパー 後編

 鎖骨への痛みが激しい。

集中力を欠いた状態では心理面での負担も

大幅に影響を受ける。

携帯保存食(刺激物)を口へと運び、

痛みと集中力をそちらへ逃がす。

標的はスコープに収まっているのだから。

ライトバンを盾にしているつもりだろうが…

(右足からの血流がおびただしい。二筋の血の跡=あたしへのメッセージになっている。あたしとあの子達は小さい頃から共に育ってきた。私の為なら命を落とすことも構わない。最高の贈り物をしてあの世へ旅立っていった。

戦士とは戦場でこそその真価が問われるし

あたし自身も問うてきた。強いヤツと闘いたい。戦士としての利用価値はあの子達には十分だ。満足して死んでいったことだろう。あたしも…あたしも利用される駒にすぎないのか…否…)

「それも、これもこの試合を勝ち抜くことでわかる。思わぬダメージを負ったけれどこれまでの工作も無駄にしない。

フフッ何よ!車から出てしまったじゃない。丸見えよ!アンタの姿が!!!!死ねッ!!」

まだ痛みが鈍い鎖骨を架台にし、重心を整える。勝利を確信した。

トリガーを静かに引きしぼる!!!!カチャ…



「あのバカッ気がついていないのか」

ソワソワするガン・トレット。

「まだですわ。あの娘はまだ諦めてません」

言いながらもどこか黒い不安が払拭できないシャルロット。




 弾は鈴麗の頭部に向かって発射された。





 「こんな高い場所から狙っていたとはな。なるほどご苦労なこったぜ」

 

?…何が頭が真っ白になった。何故…

ヤツは確かにあたしのスコープが今もしかとその姿を捉えているのに…。


 ゆっくりと後ろを振り返りざまに

肩越しに衝撃が走った。

「ガッ…」どうやら銃床を蹴りを入れられたらしい。スナイパーライフルはその役割を終え安心したように路地と路地の合間に姿を消した。

「どうやらバトルフィールドを合体させたのは大失敗だったみたいだな。仲間を駒に見捨てたのも何もかも」

「どういう事だ!!」

「ミヒェル。お前のホームエリアとウチのホームエリアの境目はVR空間の行き来を読み込むのに周囲の映像と映像の矛盾を補おうする働きが発生してしまうのさ。

修正するあいだは境目の映像を一定時間留め緩やかになる。つまり【タイムラグ】が発生すんだよ。

お前が狙っていたのはウチの【残像】だったんだ」

「なんだと!?」

「ウチが境目に足を踏み入れた瞬間に

感じた違和感がコレだった。死を覚悟していた為に五感が研ぎ澄まされていたからな」

「それにしても、何故子の場所だとわかった」

「この子が教えてくれたよ」

そう言いながら鈴麗は脇に場所を移すと、そこにはあたしの子が

血を流したまま倒れていた。お腹がゆっくりと上下している。

「お前はウチの血の跡と追いかけるこの子の足跡を頼りに追跡していたハズ」

「う、裏切りものめッ!!」

キッと凄みを効かせた睨みをあたしに走らせ鈴麗は吠えた。


「この子は裏切ってなんかいねえよ!!

ミヒェル!貴様に報いる為に捨て身のメッセージを残した後に、愛するパートナーに

せめて最後にでも会いたいと願って匂いをたどりココまで来たんだ。血を流しながら、

残り少ない命を削りながらね。先に死んでいった狼達の気持ちも一緒にのせて。

お前の敗因は姑息なその考えや、仲間への思いやりがあまりに欠けていたことだ。観念しな!!!」

膝が崩れる。あの子達との訓練施設での

日々。闘いの為それだけの為に育てられた。

より強い相手と闘う事で自分の存在を示したかった。孤独な自分ではないと。

でも、アタシは孤独なんかじゃなかった。孤独を共にできるこの子達が居たのに。いつの間にか戦闘に慣れてしまうことで大切な感情を忘れていた。ただ、ただ

勝てばいい。手段も選ばず。勝ち残りさえば

あたしにも価値があるんだと。

「気づかなかった…気づいてやれなかった」

涙が頬を伝う。アツイ、アツイ涙が。


《ミヒェル選手…戦意喪失!!》

《鈴麗選手の勝利です!!!!》


勝利のアナウンスが流れると安堵の表情をしたのもつかの間、


 ウチの視界は真っ暗になった。


目を開けると見知らぬ天井が飛び込んできた。あまりの、白さが痛い。

「おッ起きた♪起きた♪」

「3日ほどで目覚めるなんて脅威の回復力ですわね。ヤッパリゴリラ女ですわ」

ガン・トレットとシャルロット。

ココは…病院なのか。

冗談を言い返す力はまだない。思ってたことを手短かに、話すことにした。

「アイツだったんだな。シャルロットに罪をなすりつけウチらを必要以上に喧嘩させてたのは」

「クイーンの名に劣らず恐ろしい相手でしたわね。手段を選ばない手口というか」

シャルお前が言うな。

「用意周到な戦士だったからね♪潰しあって特しようと思ってたんだよ。きっと。

まあミーはいつもミヒェルに負けてたから

ヤツなりの戦法は学習していたつもり。

まっ…ミーの特訓も多少は生きてたみたいだし直接ではないけど負けを返せたみたいで嬉しいヨッ!」バシンと背中を叩く。

少しは労れこのロデオ娘。

「そういえば…いい加減教えろよ小鈴のこと」

「あ、そういえば忘れてた」へへへと何か含みのあるぎこちない笑みを浮かべながらトレットが堰を切ったように語りだす。

「小鈴は、ミーがジェネアメリカ代表に選出される頃ぐらいに通ってる学校に転校してきたんだ。若い男に珍しく身体能力が高いからってのでミーの専属トレーナーに国から選ばれたみたいなんだ」

「国から?」

それが何事でもないかのように頷き、

堰を切ったみたいに話が続く。「ああ、そうさ。ホントはもっと年かさのトレーナーが側につく原則があるからかなり特殊な例ではあるけどね。でもアイツに姉がいるなんて一言も話してくれたことないから驚いたよ。約2年側についてくれてたけどミーが今回も負けたのが原因か国からのお達しが来たのかなあ…目の前から居なくなってしまったんだ」

なんという…それじゃあ小鈴探しは振り出しに戻ってしまったのか。

衝動的に胸元に手がいく

「いつ消えたんだ。いつ」

シャルロットが間に入る。

「鈴麗!落ち着いて」

トレットがウチの手を払いのけ、襟元を正しながら哀しそうな顔を向ける。

「おいおい、よしなって。傷に障る。

ユーとの修行中にはまだ連絡はついてたんだ。試合が終わってから後だよ」

さぞかし

トレットも言い出しづらかったんだろう。

そうか…それならしゃあねえな。

しゃあねえ…


しばらく沈黙が病室を漂った。

頭が冷えてきた。

そういえば、コイツラわざわざ見舞いに来てくれたんだなと今更気づく。


「今回はおまえ達に助けられた。ありがとな」

「ヤケに素直ですのね」

窓際に一羽のカラスが電線に乗り

コチラを睥睨している。


「まあな。アイツを見てて思ったんだよ。

ウチもこの前までは孤独だったからな。

アイツも…立ち直れるといいな」

返答がないから窓から視線を移すと、

部屋のスミで何やら2人ヒソヒソ話をしてる。

「命を奪られそうになった相手の心配してるよ」

「倒れた時に頭でも強く打ったのではありませんか?頭の治療が優先ですわねえ」


んだと!コラぁーッ!!!!


―鈴麗GALsBOUT―第二部 【完】










 

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鈴麗GALsBOUT―RGB ラウンド3 天球儀ナグルファル!d(*´ω`🎀) @ZERO0312

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