普通な人生でも物語にする価値もあります

もう10回以上見た気がします。
でも、何か感想を書こうとするたびに、自分の心の中の感動をどう表現すればいいかわからなくなってしまいます。

私はこの小説の淡々とした語り口が好きです。
ごく普通の二人が出会って、知って、愛し合っていく様を、ごく淡々とした叙述で描いています。
この二人は世界でもっとも普通の二人なのかもしれません。
一人は、幼い頃から親に捨てられ、必死にもがいて生きてきました。
もう一人は、見た目は華やかですが、職場での不公平に耐えている人です。
しかし、その偶然の出会いによって、二人の人生は交錯していきます。
彼女たちは一生関わりのない二人だったのかもしれません。
でも何度も一緒にいるうちに、心は少しずつ近づいていきました。

このストーリーは百合小説の中で、もっとも特別なものではないかもしれません。
でも、出てくる人物がどこにでもいる普通の人だからこそ、見ている人は何かを感じるのかもしれません。
彼女たちの間の付き合いも淡々としていて、特別なところはあまりありません。
普通の誤解、普通のけんか、普通の仲直り。
このストーリーはそんなに派手ではありませんが、それは、普通の人なら誰でも経験しうること、経験していること、すでに経験していることです。

奇妙な異世界、見たこともない上流社会、手の届かない世界をみんなで描いているときに、いきなりこんな平凡なストーリーを見て感動してしまうんです。
普通の人も見られているような気がします。
優秀でユニークな人だけが見られるわけではありません。
そんな普通な人生でも語られるし、物語にする価値もあります。

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