最終話
「ホオズキさんは、女の人が好きなんですか?」
「なに? 急に」
ホオズキがあたしの服をすべて剥ぎ取りベッドに押し倒してきたところで、あたしはずっと抱いていた疑問を口にした。
「全然、服を脱がないので。男の人とする時は、脱ぎますよね?」
「そうだね。恋愛をする上で性別に特別なこだわりはないかな。あまり他人に興味がないから、逆に好きになったらラッキーだと思ってる。服を脱がないのは、ただタイミングの問題かな」
「そうなんですか……」
あたしはホオズキのスウェットの裾を掴んで、手のひらの中で弄ぶ。
「脱がしたい? いいよ」
ホオズキがあたしの体に触れていた手を止めて、万歳をする。
「一言もそんなこと言ってないです」
あたしはそう言いつつも、上体を起こしてホオズキの服を一気に捲り上げると、大きめの胸が目の前に現れる。
あたしは興味深そうにそれを掴むと、手のひらの中で何度か形を変えさせてみる。
「くすぐったい」
ホオズキが肩を震わせて笑った。
あたしは少しだけむっとして、胸の先を口に含んでみる。
客観的に見て、すごい格好だ。
大の大人が赤ちゃんみたいに胸に吸い付いているなんて、どんなホラーなんだろう。
それでも、なんとなく落ち着いた気分になるのは、相手がホオズキだからなのだろうか。
ホオズキはあやすようにあたしの頭を撫でながら、僅かに息を乱している。
「こういうのも悪くないね。乱れるレイナも可愛いけど、こうして甘えてくるレイナも可愛い」
「クヌギです。ホオズキさん」
「そろそろ慣れてよ」
あたしはホオズキの文句に耳を貸さず、あたしの上に座り込んだホオズキの臀部に手を伸ばす。
「してみたい?」
ホオズキがあたしを巻き込んでごろんと半回転する。
「脱がせるところからね」
「だから一言も言ってないですってば」
あたしはため息をついて、それでもホオズキの肌に残されていた服を剥ぎ取るために手を伸ばす。
全てを脱がし終えると、目の前には裸体を晒したホオズキが横たわっていた。
あたしはいつの間にか、手のひらにべったりと汗をかいていた。
「大丈夫。ほら、キスしよ」
ホオズキに顔を掴まれて引き寄せられる。
唇を何度も合わせて、舌で表面を湿らせていく。
ホオズキの手がいつの間にか腰に回っていて、あたしはその緩い刺激に体をくねらせた。
「抱いてほしい?」
「……後で」
ホオズキは腰から手を離すと、両腕をシーツの上に落とす。
「ほら、いいよ」
ホオズキの行動に背中を押され、あたしは彼女の首や肩に唇を這わせていく。
「上手、上手」
ホオズキがあたしの頭を撫でて、行為の続きを促してくる。
手のひらを滑らせて肌を撫でていると、ホオズキの体がわずかに震えた。
あたしはしばらくの間、そうやってホオズキの肌を手と唇で感じていると、ある時唐突に手を取られた。
手はゆっくりとホオズキの股の間に導かれ、あたしは迷わずそこに触れる。
ホオズキが、控え目ながらも聞いたことのない声を上げる。
あたしはたまらなくなって、それから熱心にその肌を貪った。
満足するまでホオズキに触れた後、あたしは下から伸びてきた手に全身を撫でまわされていた。
身をよじっても、全身をホオズキの前に晒していたので、どこにも逃げる場所はなかった。
ひどく卑猥な水音がして、あたしの中にホオズキが入ってくる。
無防備になっていたあたしの体は、その強い刺激に全く耐えることができなくて、あたしは一瞬で頭の中を真っ白に染め上げた。
「早っ……」
ホオズキが驚いたように言ったが、あたしはそれどころではなくて、あたしの下に横たわったホオズキの肩にしがみつくので精一杯だった。
自分の体が不思議だった。
ほとんど触られていなかったのに、あたしの体は準備万端にホオズキを迎え入れたのだ。
中で蠢かれて、必要もないのに声を上げる。
予期していなかった刺激に戸惑い、手を止めてほしいのに腰を振る。
暴れる体を片手で抑えられながら、ホオズキがあたしの耳元でささやいてくる。
「レイナ、私のこと好き?」
「変態……!」
「傷つくなあ」
ホオズキはこういう時に、あたしに『好き』と言わせるのが好きだ。
普段言わないからこういう時くらい聞きたい、というのが彼女の弁だが、あたしが普段から言ったところで、この行為をやめるとは思えなかった。
「言って、レイナ」
もう泣いてしまいそうだった。
真ん中を貫いていく刺激があたしの強固な羞恥心を壊し、ホオズキがあたしの口を割らせようと言葉で強請る。
あたしはどうしようもなくなって、ホオズキの頭を抱え込む。
余計なものがすべて剥がれ落ちていき、後には心の底から思っていることだけが残る。
「っ好き! 好き!」
「うん、私も好きだよ」
どろどろになってしまった頭では何かを考えることもできなくて、あたしはもたらされる刺激にただ翻弄され続けて、それから大きな何かが体内で弾けて、そのままホオズキの上にべちゃりと崩れ落ちた。
「可愛いなあ」
ホオズキがあたしの頭を撫でている。
あたしはごほっとひとつ咳をすると、反論するように声を出す。
「あたし、アラサー……」
「20代はアラサーって言わない。30になってから言いなさい」
「えー、言葉の定義、違う……」
「言葉は常に進化するものだよ」
「よくわかんない」
「言語学というものがあってね」
「ところで、アサコさんっていくつなの?」
「あ、名前呼んだね! でも秘密。まあ10は違わなよ」
「へえ」
あたしはホオズキの上から退こうと体をよじらせたが、うまくいかなくてただ体を押し付けているような格好になる。
「わあ大胆。足りなかった?」
「え、もう無理」
あたしがやっとの思いでころりと横に転がると、ホオズキの手が伸びてきてあたしの体を抱き寄せる。
顔を胸元に引き寄せられて、少しだけ呼吸が苦しくなる。
「んー、可愛い」
「何回言うの」
「何回でも」
触れあった肌が気持ちよかった。
体を暖かく包まれて、安心感に眠くなる。
「そういえば私、年収下がったから引っ越そうと思ってるんだけどね。よかったら」
「無理。あたしに家賃の半分は払えない」
「いやいや、払わそうなんてこれっぽちも思ってなくて、むしろ私が全部丸っと出したいくらいなんだけど」
「嫌。ペットみたいに飼われるのは嫌」
「じゃあ3分の1でどう?」
「……まあ、それなら。家賃いくら?」
「25万」
「え、全然無理。それ貯金できるの? 使い果たしてない?」
「できなくはないかな」
「そういうこともちゃんと考えて」
「はーい。でもピアノは買いたいね」
「まだ使えるからいい」
「いや、壊れてるでしょ。高くないやつにするから。ね?」
「うー」
まぶたがゆっくりと垂れ下がってくる。
口調が段々と呟くようなものに変わっていき、あたしは本格的に寝る態勢に入る。
「ありがとう、アサコさん」
「ん?」
「何でもない」
あたしは足元にとぐろを巻いていた掛け布団を引っ張り上げると、2人の上に被せた。
「おやすみ、レイナ」
「おやすみ。また明日」
夜はゆっくりと更けていき、室内には2人の穏やかな寝息だけが響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます