第80話 龍



 『龍人族』。それはいくつもの種類のある『人』の中で最も強いとされる種族の一つだ。


 体躯は人族と大差無いが、その頭にある大きな角とまさにドラゴンを彷彿とさせる尻尾を持ち、その種族の名に恥じぬほどの強さを持つ。


 強い者しか認めない、といった考えを持つものが多く、それ故に繁栄力も弱く年々少なくなっている種族らしいが、例えそうだとしても超強力な国家として存在しているらしい。


 そして、一言で龍人族と言っても、更に龍人族には種類があるらしい。


 ドラゴンを彷彿とさせる角や尻尾等は変わらないが、主に全身の所々にある鱗のようなものの色がその種族名に反映しているらしい。


 ベルクの種族名がレミアクランが言った物で合っているのなら、奴はその中の一つである『青龍族』なのだろう。


 龍人族の中での三大勢力である『赤』、『青』、『緑』の中の一つの『青龍族』。

 龍人族の平均的な身体能力はありつつ、全龍人族の中の種族の中で最も硬いとされる鱗の鎧を持っていると言われる種族。

 何よりも単体で災害を防げるほどの障壁魔術を使えると言われるほどの魔力と障壁魔術への先天的な才能を持って産まれてくるらしい。


「さぁ、俺を切ってみろ!お前らの攻撃なんぞ効かねぇよ!」

「ドMに付き合ってる暇はないね!はぁ!」

「……『鬼牙』」

「舐められたものだな!……『神聖斬撃』!」


 四つの剣と斬撃がベルクに迫る。どれも顔面や心臓当たりといった確実に急所を狙っていた。

 しかし、それがわかっている筈のベルクは一切防御の姿勢を見せることは無かった。

 

 ガキィィン!と鳴り響くまるで金属同士がぶつかり合うような音。生き物とは思えないような音と硬さを俺達はその手から実感しながら即座に退避する。

 これが本当のベルクの強さだって……!?


「な、なんて硬さだ……。それに、私の聖属性魔術の攻撃すら弾いた。……どうなってるんだ?」

「はっ、言っただろ?俺は魔族と龍人族のハーフだと。聖属性が弱点になるのは魔王様の力を持った魔族だけ。俺には通用しねぇ!」


 どういう理論なのかは分からないが、実際に通用しない以上、ベルクの言っていることは本当なのだろう。


 彼女の聖属性魔術という最大の攻撃方法すらも効かなった。さらに言えば俺達の攻撃すらも通用しない。こんな生物、本当に勝てるのか?


「ははっ……、ここまで遠い存在だとはな……」

「……」

「君達!諦めるな!」

「……「!?」」


 その圧倒的強さを持つベルクという存在に弱ってしまった俺の心を殴り飛ばすかのようにレミアクランの大声が響く。


「魔族?魔淵の使徒?関係ない!完璧なんて存在しない!相手がなんであれ弱点はある!生きている間は絶対にチャンスは存在する!」

「はぁ?完璧は無い?弱点はある?……テメェらはこの状況を理解出来ない馬鹿だとはなぁ」


 俺の背筋にゾクゾクと悪寒が走る。来る!


 そう感じた瞬間に目にも止まらぬ速度で接近するベルク。その狙いはレミアクラン。

 それはフェイントもクソもないただの突進からの拳の突き。だが、それ故にとてつもない強力な攻撃であった。


「死ねぇ!」

「くっ、『廻降』!」

「無駄ァ!」

「……まだまだ、『流鬼』!」


 レミアクランはその攻撃を避けれないと判断し、拳の向きを変えることにしたが、その流れの向きを変えることは出来なかった。

 しかし、その直後に接近したレンゲが更に押し込むことで直撃は免れる。


 しかし、レミアクランを避けたその拳はそのまま地面に叩きつけられる。逃げ場を失った力は爆発を起こして地面を大きく抉った。


「なんて威力……!?だが!」

「まだまだぁ!『覇王はおう』!」

「ふぅ……『虚返し』」

 

 ベルクの拳に、まるでタイミングを合わせたかのようにレミアクランが剣を振るう。それに今の動き……まるで剣を押し付けているような?


「……あ?」

「今だ!」


 そしてそのぶつかり合いの結果……バキッ、と音を立ててベルクの拳が腕ごと壊れる。

 その現象に意味がわからないと惚けるベルク。レミアクランはその隙を逃がすかと言わんばかりに俺を見て声を上げる。


 その声を聞いた俺達もどうしてそうなったかなどを考えるよりも早く行動に移し、現段階で即座に使える最大威力を放つ。


 俺を見たって事は……『魔力衝撃波』を使えって事か!


「『二重・魔力衝撃波』!」

「『焔裂・聖炎』!」

「……『鬼瞬』」

「ガッ……ゴホッ!?」


 単なる体の頑丈さでは俺の衝撃波を防ぐことは出来ない。俺の衝撃波はベルクの体内に魔力的なダメージを与えた。

 そして、俺の衝撃波に追従するように二人ともベルクに攻撃を与える。すると、その攻撃はベルクの体を薄くだが切り裂いた。


「やった!」

「まだだ!喜ぶのはまだ早い!」

「……く、くははは!そうか、なるほどな!俺の力を技で反転させたのか!テメェ、やっぱりやるな!」

「……もう回復させた」


 攻撃を与えることに成功したと思った瞬間、大きく笑いだしたベルクはたった数表で腕も切り傷も回復させた。

 これでもダメなのか!?


 龍人族の頑丈さと魔人族の回復力。ふたつを合わせたような腕力とスピード。そして魔力。

 完璧を自称するのも頷けるほどのその規格外さに最早俺には勝てる道は見えなかった。


 だけど……戦うしかない。絶対に勝たないといけないんだ!

 

「レンゲ!レミアクランさん!時間を稼いでくれますか!」

「っ!分かった!」

「……了解」

「ほう?どうやらまた楽しませてくれそうだなぁ!せいぜい時間を稼いでみろ!」


 俺は二人を信じ、俺は少し後退して意識を集中する。

 ベルクを倒すにはあの再生能力をどうにかするしかない。完全に封じることは出来なくても……それを阻害するならどうにか出来るかもしれない!

 

 俺は今も常にピリピリと感じる気を抜けば気絶してしまいそうなプレッシャーの中に混じる魔力に意識を集中する。


 『全能操作』はどこまで行っても魔力を操るスキル。それだけで相手を倒せるようになるのはもっとレベルをあげた先だろう。


 今まではステータスのレベルが上がれば何とかなると心のどこかで思っていた。だけど、そんなんじゃダメだ。例えレベルが上がらなかろうと、何度も繰り返すことで極め、本当の意味で得ることが出来た技術こそが本当の強さだって事を俺はこの戦いを経験した事で知った。

 

 だけど、今必要なのは戦った後の教訓ではなく今すぐ使えて勝利に繋がる力。今の自分を超えるためには、自身の死への実感と仲間の窮地により生まれる極限の集中力!


 そして、どんな無理難題だろうと可能にするという圧倒的な自信と勇気!


 目の前で繰り広げられる死闘。何度も攻撃が直撃仕掛けているのを見ると、居てもたってもいられなくなる。

 そして感じる余波はまるで全速力の車が俺の周りを走り回っているかのよう。


 二人が俺を守ってくれているとわかっていても本能が叫ぶ死の予感。それすらもねじ伏せて俺は目をつぶる。


 残りの少ない魔力をできるだけ効率的に薄く、広く伸ばし、ベルクを見つけて俺と紐ずけるように繋げる。


 ただ紐付けただけではベルクの魔力を操れたりはしない。その代わりに魔力の波長の様なものを感覚的に感じることに成功した。


『条件達成。【魔力感知】を取得しました。』


 俺の集中力は更に深く、濃密になって行く。段々と周りの音は聞こえなくなり、ただただ脳に送られてくる魔力の波長と自分の魔力の波長を較べ、ただ理解に専念する。

 何か戦闘音とは違う音が聞こえた気がしたが、俺にはその音がなんなのか理解しようとするリソースすらも魔力に向けた。


 しかし、どうしても俺の魔力とベルクの魔力を較べても完全な理解にたどり着けない。同じ魔力である以上、同じような法則があって同じような動き方があるはずなんだ。


 俺は目を開き、音を聞く。魔力だけでなく他の五感でも情報を集める。

 目に入ってくる情報は剣と拳をぶつけ合い戦う三人の様子。耳にはぶつかり合う音と足が地面を蹴りつける音。そして、三人の声。


「レンゲ!呼吸を、心音を、自身の端から端まで全てを意識しろ!肉体の流れと自分の動きを連動させろ!」

「……わかった!」

「俺を練習台にするとは、なかなか度胸あるじゃねぇか!!」


 呼吸……心音……自身の端から端……っ!?そうか!

 

 長いようで短い時間をかけ、俺はやっと気づく。

 その魔力の波長はベルクの動きに……いや、動きだけではなく、まるで全身を流脈する血液のように蠢いている事を。

 

 俺とベルクの魔力が決定的に違っていた事。

 それは生き物であるが故に確実に生まれる筈の生命運動のタイミングの誤差。それにより生まれるその存在にだけしか対応しない魔力波長。


 そして俺は完全に理解する。

 この魔力の波長は、魔力の持ち主を判別する為にあるのではないことを。

 俺にしか本当の意味で感じることのこの魔力の波長。それは、その魔力の持ち主のありとあらゆる全てを表しているということを。


『条件達成。【魔力鑑定】を取得しました。』

「……『魔力鑑定』」


 そして頭に入ってくるベルクに関する情報。その中には、勝利への決定的な情報もあった。


「ここからが、本当の反撃だ!」


 

 ♦♦♦♦♦



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 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!

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