第79話 本当





「バルッ!」

「よそ見か?」

「ッ!?『牙打ガダ』ァ!」

「『廻降まわくだし』!」

「ガハッ!?」


 ベルクがバルを見た瞬間にレミアクランが背後から切り掛る。

 それに対して咄嗟に背後に攻撃したベルクだが、完全に見切られたその攻撃はレミアクランに逸らされ、完璧にカウンターをくらい吹き飛んだ。


「今だ!皆ら逃げるんだ!早く!」

「「「「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」」」」


 レミアクランが観客たちに向かって叫ぶ。その声を聞いて観客たちはやっと障壁が解除されたことを理解する。

 その途端、観客たちは大きな声で騒ぎながら会場から逃げ出して行った。


 観客達が出ていったことで騎士や冒険者達が入ってこないといいが……。まぁ、観客達の保護で少しの間は入ってこないだろう。


「もう……仕分けございま……せん。主、様……」

「いい、あんなゴミ共は居なくなっても特に変わらねぇ。今はコイツらだ」

「さて、これで完全に私達の方が有利になったな。さっさと決着を付けるとしよう」


 レミアクランは傷を修復しているのか、少し屈んでいるベルクに近づく。

 俺達も近づくが、邪魔にならないように一定距離は離れつつ、いつでも動けるように警戒を続けた。


「はっ、有利?何を勘違いしてやがる。何も気にせず戦えるようになったのは、テメェらだけじゃねぇんだよ!」

「キャッ!?」

「サーナ!?」


 ベルクは足に莫大な魔力を詰め込み、その場の地面を踏みつける。その瞬間、サーナが展開していた聖域が崩壊する。

 今まではバルが展開していた障壁を壊さないためにやらなかっただけで、いつでも崩壊させることは出来たのだろう。


 俺達はベルクの動きに警戒しつつも、サーナのところに向かう。


 ただ魔術を壊されただけなのでダメージを受けた訳では無いだろうが、障壁の代わりをしていた聖域が壊れたのでサーナを守らなければならない。


「大丈夫か!」

「はい〜……、魔力がそこを着きかけてること以外は平気です。……私、役に立てましたか?」

「ああ、もちろんだ」

「……ん、サーナが居なかったらとっくの前に終わってた」


 サーナが使った聖域が無ければ、俺はまともに戦うことすら無理だっただろうし、レミアクランという唯一の勝機が復活することもなかった。


 何故サーナがあんな魔術を使えるのかは分からない。

 使えるとも教えてくれてなかったので、隠していた理由もあるのだろう。


 だが、そんな理由も無視して俺たちの為にその力を使ってくれたサーナには感謝しか無かった。


「これで俺の弱体化は無くなり、テメェらの強化も無くなったな」

「ふっ、これで困るのは貴様じゃないか?聖域っていう言い訳がなくなってね」

「ハッ!言ってくれるじゃねぇか。なら……立て、バル」

「主様……なるほど、わかりました」


 ベルクの命令にバルはふらつきながらも立ち上がる。

 今も背中からは大量の血が流れている筈。それでも立ち上がるのは流石魔族と言ったところか。


 今のあいつに何か出来るとは思えないが……それでも警戒しない訳には行けない。

 確実にベルクはなにかしようとしているが、それが分からない限り無闇に斬りかかることも出来ない。


「バル、今までご苦労だったな」

「ありがたきお言葉です。では……」

「ああ、


 まるで最後の別れのような会話を二人がした直後、ベルクがバルの胸あたりにまるで心臓を狙うように腕を突き刺した。


「……「「なっ!?」」」

「……っ!?まさか!させるか!」


 仲間に腕を突き刺すという、その突然で奇怪的な行為に俺達は一瞬理解が遅れる。

 血が吹き出る様子は見られない。どちらかと言えば俺の『魔力眼』には大量の魔力が溢れ出ていた。

 どうやら、物理的に刺しているのでは無さそうだ。


 そんな俺達よりもすぐに立ち直ったレミアクランは何をしていふのか理解したのか、目にも止まらぬ速度でベルクに近づき、剣をその腕めがけて振り下ろした。


「ハァァ!」

「遅ぇな」


 そして、またもや巨大な力どうしがぶつかり合う爆音が鳴り響く。

 しかし、レミアクランの剣はベルクの腕に届くことは無く、代わりに突然現れた半透明の壁に防がれた。


「あれは……障壁か!?」

「……そんな、あいつは満身創痍の筈……」


 レンゲの言う通り、バルはレンゲが切り裂いたので満身創痍。例え魔術を使えたとしても、さっきの攻撃を止められるような魔術が使えるとは思えなかった。


 レミアクランはその事実に一瞬の動揺を見せた後、更に速度を上げてあらゆる方向からベルクに斬りかかったが、どれも全て障壁で阻まれる。


 そして……バルの体からベルクは謎の魔力の塊を取り出した。


 そして俺達は感じ取った。まるでベルクが2人になったかのような莫大なプレッシャー。

 そして瞬時に気がつく。それはベルクが二人になったのではない。その状態が本当の状態であり、このプレッシャーこそがベルクの本気なのだと。


 ベルクはバルから取り出した魔力の塊を自分の胸に押し当てる。すると、その塊はゆっくりとベルクの中に入って言った。


「……なるほど。貴様が防御をしない、必要としない理由がわかった」

「そりゃよかったなぁ!」

「主様……ご武運を……」


 レミアクランは冷や汗をかきながらそういう。Sランク冒険者でさえその迫力に押されるほどのプレッシャーだ。


 バルは魔力を抜かれる瞬間にそう言い残し、完全に息を引き取る。気配どころか、本来死体になっても少しの間残り続ける魔力すら感じる事はできなかった。


 バルの魔力を体内に入れる行為はベルクの体に大きな影響を及ぼした。それは異常なほどのプレッシャーを出すだけじゃない。

 最初から青黒い色だった体は、黒いままではあるが少しずつ青に近づき、全身の至る所に分厚い鱗のような物が現れる。今までは髪の毛で隠れていたのであろう角が巨大化して明確に現れ、更には肌の色と一緒の巨大な尻尾が現れた。


 その姿は、まるで……。


「……『龍人族』。しかも防御に特化した『青龍族』。それ故に防御等必要なかったということか」

「そういうことだ!正確にはハーフだけどなぁ!だがな、俺はそこらの中途半端なハーフじゃねぇ。龍人族と魔族の両方の血の優れた所だけを全て受け継いだ、完全完璧な存在なんだよ!!」


 その存在を完璧したベルクは、またもや強大な力を見せつけ俺達の前に立ち塞がる。

 それでも俺達は奴を超えていかなければならない。


「行くぜテメェら。俺を本気にさせたことを後悔させてやる!」

「その自信、貴様の体を切り裂くことで叩き斬る!」

「レンゲ!来るぞ!」

「……ん」


 俺達の体力や魔力的に最後のぶつかり合い。無限化のようにベルクから溢れる魔力を全身に浴びつつ、俺達は走り出した。

 



 ♦♦♦♦♦



 良ければハートと星、フォローよろしくお願いします!


 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る